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病気の悩みを漢方で

症状と漢方薬

熱中症と夏ばての漢方

(1)熱感と口渴
(2)高齢者

1.熱中症と夏ばて

 熱中症は高温多湿、日射、無風などの環境下で身体からの熱放散が障碍され体温が上昇し熱感口渴を含む多様な症状が発現します(図1)。
 高温多湿⇒発汗過多⇒水分塩分不足⇒体温調節障碍(高体温)⇒熱感と口渴



 現場の応急処置は、涼しいところへ移動し衣服をゆるめて、首の周り脇の下冷やします。声をかけて意識を確認し、自分で水が飲めればひと段落です。
 声かけに反応せずぼんやりとしている場合は、救急車を手配します。このとき無理に水を飲ませると誤嚥(ゴエン)する恐れがあります。

 夏ばては、熱中症と異なり体温が高い状態ではありません。熱中症がきっかけになり自律神経機能が失調して生命維持活動が低下し栄養状態が悪化して心身の疲労や虚弱が長引いた状態です。夏やせを参照してください。

2.熱中症や夏ばての漢方医療の概要

 熱中症は高齢者だけでなく、炎天下のスポーツや仕事を続ける若い人や中壮年の人にも起きます(労作性熱中症)。
 熱中症に続く夏ばては、若い人では一過性ですが、平素から消化機能の弱い人や持病を持つ高齢者は室内でも発症します。長引くと夏やせします。

 漢方医療では熱中症段階と夏ばて段階は熱証虚証の程度が異なるので方剤を使い分けます(図2)。


3.熱中症の熱感、口渴に白虎加人参湯(ビャッコカニンジントウ)

 漢方の適応は応急処置後の軽度熱中症の症状を軽減することにあります。
 白虎加人参湯は軽度熱中症の熱感ほてり(熱が体内にこもる感じ)、口渴などの熱証に適します。エキス製剤は冷たい水に懸濁させて少しずつ服用するとよいでしょう。

 本方は、以下の5生薬から構成されています(図3)。


 人参(ニンジン)を含む左の4生薬は発汗による脱水(津液不足 シンエキフソク)を潤す生津薬(セイシンヤク)です。右の知母(チモ)と石膏(セッコウ)は体内に溜まった熱を冷やす清熱薬(セイネツヤク)です。
 粳米(コウベイ)は玄米です。この方剤の煎剤はお粥(カユ)を飲んで栄養を補給する狙いもあるようです。

4.夏ばての倦怠感に清暑益気湯(セイショエッキトウ)

 夏ばては疲労倦怠感、体が重い、動きたくない、手足のだるさ、息切れ、口の乾燥、咽の渴き、日中の眠気などを伴う状態です。熱中症より熱証は軽い病態です。

 清暑益気湯(セイショエッキトウ)は図4のような夏ばて状態に頻用されます。胃腸機能を整え、発汗で乾いた体を潤す補気生津剤(ホキセイシンザイ)です。
 本方は補気薬人参黄耆(オウギ)と津液の不足を補う生津薬麦門冬(バクモンドウ)と五味子(ゴミシ)を含みます。

 本方は虚弱に用いられる補中益気湯(ホチュウエッキトウ)を夏ばてのほてり、口渴に適するように改変した方剤です。補中益気湯より苦味があるのが特徴です。
漢方薬名の意味:清暑益気湯を参照してください。

 清暑益気湯と関連する補中益気湯六君子湯(リックンシトウ)の配合生薬を比較しました(図5)。漢方薬名の意味:補中益気湯を参照してください。


 3方剤は夏ばてに用いられますが、六君子湯食欲不振吐き気胃もたれを軽減し熱中症と夏ばての予防に適します。倦怠感が顕著になると清暑益気湯は熱中症後の熱感ほてり口渴補中益気湯だるさ筋肉緊張の低下を目標にして使い分けられます。

5.夏ばてには冷えすぎ対策も重要

 夏ばて予防にはエアコンで室内を冷やし水分を摂取することが推奨されています。
 この対策が行き過ぎると冷房下痢になります。そのような時に適するのが人参湯(ニンジントウ:図6)です。
 エキス剤を白湯に懸濁させて温かい状態で服用してください。
 夏は暑い食べ物が〝はらぐすり(腹薬)〟と言われてきました。冷たい飲食を過度に摂取しないようにしてください。

ちょっと一言:(トピックス)

暑さ指数(WBGT)と熱中症警戒アラート

暑さ指数(WBGT): 人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目した指標です。1)気温だけでなく、2)湿度、3)日射を組み合わせて算出されます。湿度の関与を加味したことが特徴です。

熱中症警戒アラート: 暑さ指数の値が33以上になると予測された場合に発出されます。
 戸外での活動制限や室内のエアコン使用や水分補給など熱中症を予防する行動を再確認してください。

(2021年7月30日 改訂公開)


病気の悩みを漢方で

谿 忠人 先生

大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了

  • 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
  • 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
  • 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
  • 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
  • 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
  • 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
  • 大阪大谷大学名誉教授。
  • 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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