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病気の悩みを漢方で

症状と漢方薬

肝臓病の漢方

(1)ウイルス肝炎
(2)脂肪肝

1.脂肪肝、脂肪性肝炎

 脂肪肝(FL: fatty liver)は、肝臓細胞の30%以上に中性脂肪滴が溜まった状態をいいます。飽食やアルコールの過剰摂取、運動不足によるメタボ肥満やインスリン抵抗性に伴って発症します。メタボ肥満は、肥満(1)を参照してください。

 脂肪性肝炎(SH: steatohepatitis)は、脂肪肝が、肝炎に進行した病態です。脂肪性肝炎の一部が予後不良な肝硬変から肝がんに進展します(図1)。

 脂肪肝は当初には特有の症状はありませんが、倦怠感や抑うつ、不眠などの不定愁訴や、逆流性食道炎と同様の食欲不振や胃もたれ、吐き気が発現します。
 多くの場合、健康診断や人間ドックでの肝機能検査異常で発見され、腹部超音波検査などで確認されます。

2.脂肪肝、脂肪性肝炎に用いられる漢方製剤

 脂肪性肝炎の症状(病態)の経時変化(病期)に応じた漢方治療の概要を示します(図2)。

 脂質異常(高脂血症)で脂肪肝を有する人は、漢方医学診断で、腹力が強く体格指数(BMI)が大きいことが示されています(日東医誌., 1997; 48: 197-203)。

 上記の腹力が強い病態は、体力の実証に相当し、高脂血症傾向は、食積(ショクシャク)という病理の実証に相当します。大黄(ダイオウ:瀉下攻積)を配合した瀉下剤(シャゲザイ)の適応になります。
 脂肪肝やアルコール性肝炎(ASH)や非アルコール性肝炎(NASH)の初期治療に肥満(2)糖尿病(2)と同様の考え方を応用します。



(ボウフウツウショウサン)は、臍を中心にした太鼓腹で腹部に脂肪が多く固太り便秘傾向のメタボ肥満食積)に使用されています(図3)。
 本方は、瀉下剤に耐えられる体力の余力のある人が対象になります。漢方薬名の意味:防風通聖散を参照してください。

 防風通聖散の脂質異常症(高脂質血症)に関する症例報告があります。

(食事や運動療法などの生活改善と併用)は、 耐糖能異常(IGT)を伴う日本人肥満症女性患者の中性脂肪値の改善だけでを改善し内臓脂肪量を減量した。

 Jpn. J. Pharm. Health Care Sci., 2008; 34: 513-521


 防風通聖散は「白色脂肪細胞での脂肪分解作用に加えて褐色脂肪細胞による脂肪燃焼効果を発揮する」代謝活性薬です(Int. J. Obesity, 1995; 717-722)。

(ダイサイコトウ)は、大黄瀉下して腹部膨満感便秘を軽減する方剤です。漢方薬名の意味:大柴胡湯を参照してください。

 大柴胡湯の脂質異常症(高脂質血症)に関する症例報告があります。

・8週間以上投与で、脂肪肝の37.5%を改善。

 臨床と研究, 1992; 69: 3367-3372


・本態性高血圧症患者の中性脂肪を低下

 動脈硬化, 1992; 20: 943-948


 大柴胡湯は、現実的には脂質改善薬食事療法運動療法を併用されます。

(インチンコウトウ)が、高血圧、高脂血症、脂肪肝、境界型糖尿病を伴う婦人更年期症状を改善した報告(産婦人科漢方研究のあゆみ, 2009; 26: 40-43)や、脂肪肝のAST/ALTを改善(漢方医学, 2002; 26: 34-36)した症例報告があります。

 本方は古典には「身発黄」に用いる記載があります。配合生薬の茵蔯蒿山梔子(サンシシ)には黄疸を軽減する利胆作用があります(Hepatology, 2004; 39(1): 167-178)。
 漢方薬名の意味:茵蔯蒿湯を参照してください。

 基礎研究において、上記の大黄配合剤の防風通聖散大柴胡湯茵蔯蒿湯が、高脂質血症病態マウスの肝細胞内の脂肪小滴の増加を抑制した報告があります(産婦人科漢方研究のあゆみ, 2014; 31: 144-149)。

(ケイシブクリョウガン):内臓脂肪型肥満者は、瘀血(オケツ)に関連することが臨床的に明らかにされています(日東医誌., 1999; 50: 11-19)。
 本方は、瘀血を軽減する活血剤です。漢方薬名の意味:桂枝茯苓丸を参照してください。そのため本方は、肥満した脂肪肝炎治療では前記の防風通聖散大柴胡湯茵蔯蒿湯と併用されています。
には、高脂肪食で飼育したウサギの脂肪肝病変を軽減した基礎研究があります(Exp. Biol. Med., 2008; 233: 328-337)。

(ショウサイコトウ)と(インチンゴレイサン)を併用して、アルコール性肝障碍患者の自覚症状と肝機能検査を改善した報告があります。

(3ヶ月投与)単独群と併用群は、ともにアルコール性肝障碍患者の自覚症状(食思不振吐き気倦怠感)と肝機能検査を改善した。茵蔯五苓散併用群のALP(胆汁うっ滞の指標)は小柴胡湯単独群より低下した。

 ランダム化比較試験 医学のあゆみ, 1993; 167: 811-814


 小柴胡湯には、基礎研究において、アルコール性脂肪肝モデルラットの肝内の脂肪滴増加を抑制した報告(アルコール代謝と肝., 1988; 7: 371-375)や、マウスのNASH病態モデルを抑制した報告(Pathol. Int., 2014; 64: 490-498)があります。

※ アルコール性脂肪肝炎(ASH)治療の基本は、禁酒です。
 ASHで減酒薬の治療は専門外来を受診してください。または飲酒の背景になるアルコール依存症も専門医による治療が必要です。

 世界保健機関(WHO)は、アルコールに安全な摂取量基準は「ない」と呼びかけています(2023年)。

ちょっと一言:(トピックス)

脂肪肝の養生

脂肪肝の養生は、メタボ肥満や糖尿病の養生と同じです。
 たんぱく質を減らさずに、脂肪(揚げ物、ロース、ばら肉)と砂糖を減らす。
 野菜(根菜、海藻、きのこ)→ たんぱく質 → 炭水化物の順番に食べる。
 過度のダイエットは、たんぱく質不足となり中性脂肪が溜まりやすい。
 適度の運動(歩行などの有酸素運動)も重要。

(2024年7月19日 公開)


病気の悩みを漢方で

谿 忠人 先生

大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了

  • 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
  • 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
  • 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
  • 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
  • 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
  • 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
  • 大阪大谷大学名誉教授。
  • 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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谿 忠人先生

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