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病気の悩みを漢方で

症状と漢方薬

1.夏の冷え症の漢方病理と治療

 夏の冷え症は、強い冷房や冷たい飲食物という寒冷刺激が原因です。漢方医学では夏の冷え症が発症する背景として、生命維持活動(正氣 セイキ)の失調があると考えます。湿度が高い猛暑・酷暑が正氣を低下させるのです。

 正氣の失調の主体は、消化吸収機能の低下(脾胃気虚 ヒイキキョ)です。高齢者では新陳代謝機能の低下(腎虚 ジンキョ)も関わります(図1)。

 夏の冷え症が長引くと、栄養状態の低下(血虚 ケッキョや津液不足シンエキフソク)や、むくみ水滞)や胃もたれ吐き気痰飲 タンイン)などが誘発されます。そのため全身状態(正氣の失調)を調整する観点からの治療が必要になります。

 ここでは、夏の冷え症の中で下痢急性胃腸炎冷房下痢)と冷えによる痛みに用いられる漢方製剤を補気剤人参湯(ニンジントウ)を中心として考えます。

 その他の夏場の諸症状は、夏の悩み夏ばてを参照してください。

2.夏の下痢に用いられる人参湯の関連方剤

は、夏の冷房下痢に用いられる代表的な方剤です。倦怠感食欲不振薄くて多い唾液四肢や腹部の冷え頻尿を伴う病態に適します。
 本方は、人参白朮(ビャクジュツ)で脾胃気虚を軽減し、乾姜(カンキョウ)で冷えによる消化吸収機能の低下を軽減する温中散寒補気剤です(図2)。漢方薬名の意味:人参湯を参照してください。

(ケイヒトウ)は、人参湯六君子湯(リックンシトウ:補気化痰利水)の方意を含み、消化薬山楂子 サンザシ)や止瀉薬蓮肉 レンニク、山薬)を加味した補気消食止瀉剤です。人参湯より慢性に経過する軟便下痢消化不良胃もたれに適します。
 漢方薬名の意味:啓脾湯を参照してください。

(シンブトウ)は、新陳代謝の低下による冷えを温める附子(ブシ)を含む補腎陽散寒利水剤です。漢方薬名の意味:真武湯を参照してください。
 本方は、人参湯より冷え全身倦怠感腎陽虚)が顕著で、めまい浮遊感むくみ水滞)を伴う冷える時期の水様性下痢に適します。
 本方と人参湯は、冷え症(2)で比較しています。

3.夏の下痢に用いられるその他の方剤

(イレイトウ)は、夏場の急性胃腸炎による吐き気を伴う下痢に用いられます。霍乱を参照してください。
 本方は、胃部膨満感消化不良食欲不振下痢を軽減する平胃散(ヘイイイサン)と、頭痛吐き気口渴むくみを軽減する五苓散(ゴレイサン)の合剤です。漢方薬名の意味:胃苓湯を参照してください。

(カッコウショウキサン)は、夏の胃腸かぜに伴う吐き気下痢に用いられます。胃腸かぜ漢方薬名の意味:藿香正気散を参照してください。

(セイショエッキトウ)は、下痢が主たる適応ではありませんが、軽い熱中症口渴夏ばて症状食欲不振疲労倦怠感)を伴う下痢に用いられます。
 熱中症と夏ばて(1)漢方薬名の意味:清暑益気湯を参照してください。

4.冷え痛みに用いられる人参湯の関連方剤

(ダイケンチュウトウ)は、人参湯人参乾姜が共通です 。本方は、人参膠飴(コウイ:水飴)で胃腸虚弱を軽減し、乾姜山椒(サンショウ)で冷えによる痛みを温めて軽減する温中散寒補気止痛剤です(図3)。

 本方は、人参湯より冷えを伴う腹痛が顕著で、膨満感便通異常便秘下痢)に適します。本方と人参湯は、漢方薬名の意味:大建中湯でも比較しています 。

(トウキトウ)は、大建中湯の適応となる冷え腹痛腹部膨満感に加えて抑うつ感背部の痛み胃もたれ吐き気に用いられる補気補血散寒化痰剤です。
 本方と大建中湯は、漢方薬名の意味:大建中湯で比較しています。

(リョウキョウジュツカントウ)の主な適応は、胃腸症状ではなく腰の冷え痛みです。下半身が重だるくむくみ頻尿を伴う病態に適します。
 漢方薬名の意味:苓姜朮甘湯を参照してください。

5.冷え痛みに用いられるその他の方剤

(ゴシュユトウ)は、体力の低下した人の冷えを伴う反復性頭痛の第一選択薬です。食後の心窩部の停滞感吐き気にも適します。
 本方は、生姜呉茱萸吐き気痛みを軽減する人参配合剤です(図4)。
 漢方薬名の意味:呉茱萸湯を参照してください。

(トウキシギャクカゴシュユショウキョウトウ)は、冷えと各種の痛み頭痛腹痛月経痛腰痛)に用いられます。腹部の冷えだけでなく、手足の冷え血行障碍にも適した散寒止痛温経通脈補血剤です。冬の冷え症のしもやけ凍瘡)に適します。しもやけを参照してください。

 本方と呉茱萸湯は、漢方薬名の意味:呉茱萸湯で比較しています。

(トウキシャクヤクサン)の主な適応は、月経痛下腹部痛頭痛頭重感です。顔色不良で、エアコンの風が直接当たるのを嫌う人の午後に下半身がむくむ病態に適した補血利水補気剤です。冷え症(1)を参照してください。
 本方の適応となる冷え症めまい目のかすみを伴います(日東医誌., 2013; 64: 205-211)。

(アンチュウサン)は、冷え症傾向の人の神経性胃炎、慢性胃炎に伴う胃痛腹痛胸やけげっぷ胃もたれ食欲不振に用いられます。漢方薬名の意味:安中散を参照してください。
 本方は、冷え症月経痛当帰芍薬散と併用されます。

ちょっと一言:(トピックス)

熱中症・夏ばて・夏の冷え症の予防:熟眠

 酷暑日は、最高気温が40℃以上に達する日です。猛暑日(35℃以上)より暑い日を示す気象庁の公式予報用語です。2026年から使用されます。

 蒸し暑くなる6月から梅雨型熱中症の危険性が高まります。さらに夜間の最低気温が25℃以上の熱帯夜になります。良い睡眠がとれるように、夜間もエアコンを適度に設定してください。
 熟眠は、夏ばて夏の冷え症予防の重要項目です。熟眠は、正氣の失調回復に不可欠です。夏の養生を怠ると、体調不良が秋以降に続きます。

(2026年6月26日 公開)


病気の悩みを漢方で

谿 忠人 先生

大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了

  • 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
  • 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
  • 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
  • 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
  • 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
  • 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
  • 大阪大谷大学名誉教授。
  • 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
谿 忠人先生のプロフィール
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