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漢方薬名の意味

半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)

1.半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)の意味

 半夏瀉心湯の名は、半夏を含む瀉心湯類(シャシントウルイ)を意味しています。
 半夏は、胃もたれ(痰飲 タンイン)や吐き気(胃気上逆 イキジョウギャク)や咳嗽(肺気上逆)を軽減する化痰止嘔降逆薬(ケタンシオウコウギャクヤク)です。

 瀉心湯類は、心窩部のつかえ感(心下痞 シンカヒ)や、いらだち、のぼせ(心火上炎 シンカジョウエン)の熱症状を瀉する(移動させる、除去する)方剤群です。黄芩(オウゴン:清熱解毒)と黄連(オウレン:清心瀉火)の組み合わせ(薬対)が基本骨格です。漢方薬名の意味:三黄瀉心湯を参照してください。

 半夏瀉心湯は、黄芩と黄連を含めて7生薬からなります(図1)

 図1左側の3生薬は、消化吸収機能の低下(脾胃気虚 ヒイキキョ)を調える補脾補気薬です。
 中央の乾姜(カンキョウ)と半夏は、胃もたれ、吐き気を軽減する化痰止嘔降逆の薬対です。乾姜は、腹部の冷えを温める温裏散寒薬(オンリサンカンヤク)です。

 本方の主な配合生薬を図2に示します。

 以上から本方の名は、本方が、半夏の適応となる痰飲症状(胃もたれ、吐き気、心窩部のつかえ感)を軽減する瀉心湯類であることを示唆しています。

2.半夏瀉心湯の適応

 半夏瀉心湯は、主に吐き気、胃もたれ、食欲不振、心窩部のつかえ感、下痢などの胃腸症状に用いられます。胃食道逆流症(2)を参照してください。
 口内炎や胸焼けなどの熱証と、冷えによる下痢など寒証の併存した病態に適応されます。

半夏瀉心湯の上腹部症状への応用例

・胃切除後の悪心、食欲不振、胃もたれを軽減。

日消外会誌., 1995; 28: 961-965


・プロトンポンプ阻害薬 (PPI)抵抗性の胃食道逆流症を軽減(PPIとの併用)。

J. Gastroenterology., 2019; 54: 1-12


・胃排出機能を促進して悪心と食欲不振を軽減。

日東医誌., 2020; 71: 390-393


半夏瀉心湯の下腹部症状(軟便、下痢、腹鳴)への応用例

・下痢型過敏性腸症候群を軽減。

医学と薬学, 2012; 68: 127-133


・放射線治療に伴う腸炎を軽減。

日東医誌., 2014; 65: 108-114


・抗がん剤(イリノテカン)による遅発性下痢を軽減。イリノテカン療法の忍容性を改善
 (リアルワールドデータ解析)。

日東医誌., 2024; 75: 287-293


 イリノテカンによる遅発性下痢を軽減する効果には、黄芩成分(baicalin)が寄与しています(Cancer Res., 1996; 56: 3752-3757)。がん(5)を参照してください。

半夏瀉心湯の口内炎への研究例: 口内炎(2)を参照してください。

・アフタ性口内炎、舌炎を軽減。

歯薬療法., 1985; 4: 1-10


・頭頸部がんの放射線治療に伴う口内炎を軽減。

日耳鼻., 2018; 121: 22-30


・抗がん剤(スニチニブ)投与に伴う口腔粘膜炎を軽減。

日東医誌., 2018; 69: 1-6


・抗がん剤による口内炎モデルを軽減(PGE2抑制)。

日薬理誌., 2015; 146: 76-80


・口内炎を軽減する作用機序: 炎症、酸化ストレス、感染、疼痛を抑制。

(総説)外科と代謝・栄養, 2025; 59: 52-55


※ 含嗽服用:口内炎治療では、本方エキス剤を口に含んでブクブクしてから服用します。がん(5)を参照してください。本方エキス剤を水で泥状にして患部に塗布した例もあります(産婦人科漢方研究のあゆみ, 2014; 31: 122-124)。

3.半夏瀉心湯の関連方剤


・甘草瀉心湯(半夏瀉心湯+甘草増量)は、半夏瀉心湯の適応に加えていらだちと下痢傾向の病態に適します。
・生姜瀉心湯(半夏瀉心湯+生姜)は、半夏瀉心湯の適応に加えて吐き気、げっぷの顕著な病態に適します。


・(オウレンゲドクトウ)は、半夏瀉心湯よりのぼせ、顔面紅潮、いらだちなどの顕著な熱証病態に適した瀉心湯類です。本方は、黄芩、黄連を含む清熱4生薬からなります(図3)。漢方薬名の意味:黄連解毒湯を参照してください。

・三黄瀉心湯(サンオウシャシントウ:黄芩、黄連、大黄)は、黄連解毒湯の適応となる熱証症状に便秘を伴う病態に適した清熱瀉火瀉下剤です。漢方薬名の意味:三黄瀉心湯を参照してください。


・(オウレントウ)は、半夏瀉心湯の適応となる胃腸症状に加えて胃痛、腹痛、腹部の冷えを伴う寒証と熱証が挟雑した上熱中寒に適する病態に適します。

 本方は、半夏瀉心湯と6生薬が共通です。黄芩に代って桂皮(ケイヒ:散寒止痛通脈)を配合し冷えを温める薬能を強化した関連方剤です(図4)。

・(オウゴントウ)は、湿熱による下痢に適した黄芩を強調し、筋緊張による腹痛を軽減する芍薬(シャクヤク:緩急止痛)を含む清熱止痛剤です(図5)。

 は、半夏瀉心湯より熱証の下痢、しぶり腹、感染性下痢(痢疾 リシツ)に適します(日東医誌., 2011; 62: 53-56) 。ノロウイルス下痢を参照してください。
 しぶり腹は、下痢後の残便感、便意、肛門痛、腹痛を伴う下痢です。古典の裏急後重(リキュウコウジュウ)に相当します。

4.その他の半夏瀉心湯の関連方剤

(ショウサイコトウ)は、発熱疾患の亜急性期の胃腸症状や全身病態を軽減する和解剤(ワカイザイ)です。漢方薬名の意味:小柴胡湯を参照してください。
 小柴胡湯は、半夏瀉心湯と5生薬共有します(図6)。柴胡(サイコ)と黄芩の薬対を基本とする柴胡湯類の基本方剤です。古典では胸脇苦満(キョウキョウクマン:季肋部のつかえ感)が目標になっています。
 半夏瀉心湯は、黄連と黄芩の薬対を基本とする瀉心湯類(芩連剤)です。心下痞(心窩部のつかえ感)が目標です。

(リックンシトウ)は、食欲不振を主訴とする機能性ディスペプシアの第一選択薬です。機能性ディスペプシアを参照してください。

 六君子湯と半夏瀉心湯は、補気と化痰の4生薬が共通です(図7)。
 六君子湯は、利水健脾薬(リスイケンピヤク)の白朮と茯苓を含みます。清熱薬の黄芩と黄連を含まず、半夏瀉心湯より冷え症傾向の食欲不振、吐き気に適します。

 両方剤は、胃食道逆流症(2)や漢方薬名の意味:六君子湯で比較しています。

ちょっと一言:(トピックス)

半夏瀉心湯の口訣(抜粋)

・本方は、嘔気、心下部がつかえる(心下痞)と、おなかがゴロゴロ鳴る下痢に用いられます。心神の不安定による不眠にも適します(三谷和合)。

・本方は、嘔気、心下部のつかえ感、腹鳴に用いる。黄連湯は、半夏瀉心湯より寒>熱であり平素から脾胃の虚がある人の腹痛に適する(西本隆)。

・本方は、心窩部の痞塞感、胸焼けなど上部消化管症状と、腹部が鳴る(腹鳴)下痢に用いられる。心窩部の痛みには黄連湯が適する(三浦於菟)。

2026年7月29日 公開


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谿 忠人 先生

大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了

  • 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
  • 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
  • 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
  • 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
  • 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
  • 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
  • 大阪大谷大学名誉教授。
  • 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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