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病気の悩みを漢方で

香蘇散(コウソサン)
1.香蘇散(コウソサン)の意味
香蘇散の名は、主要な2生薬を示しています。香は香附子(コウブシ)、蘇は蘇葉(ソヨウ)です(図1) 。

香附子の薬能は、胸部・脇腹の痞塞感、抑うつ、頭重、不安を軽減する理気(リキ)と、月経不順を調整する活血(カッケツ)調経止痛です。
なお、香附子は、毒性のある附子(補腎陽、散寒止痛)とは異なる生薬です。
蘇葉の薬能は、辛温解表(シンオンゲヒョウ)と、理気和中(リキワチュウ)です。辛温解表は、感冒を誘発する風邪(フウジャ)や寒邪(カンジャ)を発散する薬能です。理気和中は、気滞(キタイ)を軽減して胃腸機能の低下(胃部停滞感、食欲不振)を整える薬能です。
香蘇散は、香附子と蘇葉以外に、胃腸を調える3生薬を含みます(図2)。

このことから方剤名は、本方が胃腸虚弱者のかぜの初期症状(表証)や、不定愁訴の頭重や抑うつ感(気滞 キタイ)に用いられることを示唆しています。
2.香蘇散の適応
香蘇散は、発熱、悪寒の軽度な胃腸虚弱者のかぜ初期の頭重、食欲不振に用いられます。胃腸かぜや夏かぜ(1)を参照してください。
気滞症状の抑うつ感、不安、心窩部の痞塞感や、婦人更年期の不定愁訴や、他剤との併用療法で活用されています。
2.1)香蘇散のかぜ(感冒様症候群)への応用例
・中高年の虚弱者のかぜの回復を早める。予防効果もある。ただし高熱時や咳嗽には無効。
日東医誌., 2000; 51: 407-416
・体温38.5℃未満のかぜ初期のうつ傾向や食欲不振に使用。
ファルマシア, 2020; 56: 208-212
・新型コロナウイルス感染後の嗅覚脱失や頭痛、気分の落ち込みを改善。
日東医誌., 2023; 74: 170-174
2.2)香蘇散の気滞症状の抑うつ感、不安や不定愁訴への応用例
・間歇的な腹痛や腹満、心下部の圧痛、腹動(臍上悸、臍下悸)を伴う過敏性腸症候群の便通不定を軽減。
日東医誌., 1990; 41: 77-86
・開腹術後の不安感、吐き気、食欲不振を軽減。
日東医誌., 2009; 60: 459-463
・緩和ケアにおける不安、胃腸症状を軽減。
日臨麻会誌., 2014; 34: 722-730
・婦人科がん告知後の抑うつや不安を改善。
日東医誌., 2022; 73: 414-421
基礎研究:動物実験で抗うつ様作用。
日本東洋心身医学研究, 2010; 25: 7-17
2.3)香蘇散と他剤との併用例
・六君子湯と併用(香砂六君子湯の代用): 高齢者の抑うつ感、倦怠感、だるさ、食欲不振を軽減。
日東医誌., 2010; 61: 690-698
・四逆散と併用(柴胡疎肝湯の代用): 両足足底部疼痛、抑うつ、中途覚醒を軽減。
日東医誌., 2014; 65: 115-123
・真武湯と併用: 不安感 、焦燥感を伴う足の浮腫や冷え、こむら返りを改善。
日東医誌., 2015; 66: 302-306
・小柴胡湯と併用(柴蘇飲の代用): 11例の鼻涙管狭窄症の流涙を軽減(鼻涙管ブジー法と併用)。
日東医誌., 2016; 67: 109-113
漢方薬名の意味:四逆散や六君子湯を参照してください。
3.軽度のかぜに用いられる香蘇散の関連方剤
図3に、発熱が軽度なかぜに用いられる3方剤を例示しました。これらは麻黄(マオウ)配合剤で胃部不快になる人にも使用できる方剤です。

3.1)川芎茶調散(センキュウチャチョウサン)は、軽度なかぜの初期症状から亜急性期にかけての頭痛に使用されています。月経関連や更年期の頭痛にも活用されます(ファルマシア, 2020; 56: 208-212)。婦人更年期障碍(10)を参照してください。
本方は、香蘇散と香附子と甘草を共有します。さらに多くの解表薬と、頭痛を軽減する止痛薬を含みます(図4)。本方は、頭痛の専門薬です。

3.2)参蘇飲(ジンソイン)は、食欲不振、倦怠感、咳や痰が続く胃腸かぜに用いられます。発熱が軽微な急性期から亜急性期のかぜの湿性咳嗽に適します。胃腸かぜや漢方薬名の意味:参蘇飲を参照してください。
本方は、香蘇散と解表、化痰、補気の4生薬を共有します。さらに化痰薬や理気化痰剤の二陳湯(ニチントウ)、補気化痰剤の六君子湯(リックンシトウ)の7生薬を含む解表補気化痰止咳剤です(図5)。漢方薬名の意味:参蘇飲を参照してください。

4.抑うつ感に用いられる香蘇散の関連方剤
半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)は、咽喉食道部の異物感、抑うつ感、不安、吐き気などの気滞と痰飲(タンイン)症状に用いられる理気化痰剤です。
本方は、抑うつ、不安、膨満感、胃もたれや吐き気、咳嗽を軽減する厚朴と、化痰剤の小半夏加茯苓湯(ショウハンゲカブクリョウトウ:生姜、半夏、茯苓)を含みます(図6)。漢方薬名の意味:半夏厚朴湯を参照してください。

半夏厚朴湯は、香蘇散より愁訴の部位が具体的です。香蘇散は、愁訴の部位を具体的にうまく伝えられない人に適します(ファルマシア, 2014; 50: 235-239)。
両方剤の使い分けは、ちょっと一言や漢方薬名の意味:半夏厚朴湯も参照してください。

香蘇散口訣(抜粋)
・胃の弱い人のストレスが溜まった神経症や血の道症の気うつに適した順気剤。半夏厚朴湯は、のどの奥の詰まり感を目標にする(三谷和合)。
・心理的葛藤が内向し鬱々悶々とし精神的な息詰まりを上手に開放できない人に適する。悲哀感か萎えた感じがする無力様顔貌に用いる。 半夏厚朴湯は、表情が硬く完璧性、取り越し苦労の人に用いる(花輪壽彦)。
・胃腸虚弱(脾虚)で気滞のある胃腸かぜの初期に使用される。気分が晴れない抑うつ傾向、神経過敏のある婦人科疾患にも適する(三浦於菟)。
2026年8月25日 公開
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病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。


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