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病気の悩みを漢方で

症状と漢方薬

サルコペニア(筋肉減少症)の漢方


1.サルコペニア(筋肉減少症)の概要

 サルコペニア(sarcopenia:筋肉減少症)は、筋肉量筋力や移動能力の低下を伴い運動器症候群(ロコモ:ロコモティブシンドローム)と深く関係します。

 サルコペニアは加齢による少食、吸収不良、新陳代謝低下が一次的な要因ですが、基礎疾患による栄養不足活動量低下が悪循環を繰り返して進行します(図1)。さらに寝たきり状態で活動量が低下すれば廃用萎縮といわれる病態になります。

 図1のような悪循環を経てサルコペニアとロコモは、フレイル(心身の虚弱)を併発し要介護状態に進展します。フレイル(1.基礎知識)を参照してください。

 サルコペニアの薬物治療には、活性型ビタミンD3製剤、やホルモン補充療法があります。また糖尿病、関節リウマチ、消化器など基礎疾患のある人はその治療も必要ですので主治医の先生と相談してください。

 予防には、運動療法食事療法とくにたんぱく質摂取が基本です。ちょっと一言を参照してください。

2.サルコペニアに用いられる主な生薬と方剤

 サルコペニアにみられる肉、筋、骨の衰えは、漢方では五臓(ヒ)(カン)(ジン)の機能低下と捉えます。フレイル(4)を参照してください。

 図2にサルコペニアに用いられる主な方剤を示しました。これらには主に補脾薬(ホヒヤク)の人参(ニンジン)、補血(ホケツ)補腎薬(ホジンヤク)の熟地黄(ジュクジオウ)や補腎薬附子(ブシ)が用いられています。


3.大防風湯(ダイボウフウトウ):補気補血補腎祛風剤

 大防風湯の古典に例示された適応病態は、下痢後の栄養不足による下肢の痿弱や、太股やふくらはぎが細くなり肉が落ちて骨と皮だけになった病態です。

 本方は、図2に示すように補気剤人参湯(ニンジントウ)と熟地黄を含む補血剤四物湯(シモツトウ)と散寒薬(サンカンヤク)の附子を含みます。
さらに本方は補腎薬で筋骨を強める牛膝(ゴシツ)と下肢の脱力倦怠感を軽減する杜仲(トチュウ)を含みます(図3)。

 これらを踏まえて、本方は体力や筋力の消耗関節の冷え腫れ痛みに用いられています。変形性膝関節症(2)を参照してください。

4.牛車腎気丸(ゴシャジンキガン):補腎補血活血利水剤

 牛車腎気丸下半身の脱力感、つまずきやすい、腰下肢の冷えと痛み、むくみ、しびれに用いられます。漢方薬名の意味:牛車腎気丸関節リウマチ(2)を参照してください。

牛車腎気丸は基礎研究において老化促進マウスの筋断面積とグリコーゲン貯蔵量を改善する結果が報告されています。

 大防風湯牛車腎気丸は共に補腎剤ですが、その使い分けは、
大防風湯は胃腸虚弱と栄養不足(気虚血虚)や筋肉の萎縮が目標になり、
牛車腎気丸排尿異常などの腎虚の症状が目標になります。胃腸障碍のない人に適します。腰痛(2)も参照してください。

5.サルコペニアに用いられるその他の補気剤

5.1) 人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ)は倦怠感顔色不良抑うつ感意欲低下不眠咳嗽に用いられます。漢方薬名の意味:人参養栄湯を参照してください。

 本方が高齢者の骨格筋率を有意に増やすことが明らかにされています。

人参養栄湯の臨床研究疲労倦怠を訴える高齢者(69.1±1.9歳)の骨格筋率は正常低値から有意に増加し、ロコモ度テストにより筋力低下の改善が認められた(12週投与)。 

5.2) 六君子湯(リックンシトウ)は食欲不振胃もたれ吐き気に用いられます。
 本方の食欲改善効果にはグレリン(食欲亢進ホルモン)の分泌促進や不活性化抑制作用が関与しています。漢方薬名の意味:六君子湯を参照してください。
 グレリンは筋肉の肥大にも関係していますので、六君子湯はサルコペニアの軽減にも寄与することが期待されます。
人参養栄湯グレリンを介した作用が期待できます。COPDを参照してください。

 今回はサルコペニアに用いられる方剤を解説しました。
補腎薬は足腰の衰えと冷えを軽減して運動療法を補完し、補気薬は消化吸収機能の低下を軽減して食事療法を補完します。

ちょっと一言:(トピックス)

サルコペニアの予防:たんぱく質の摂取

 サルコペニアの予防のためにたんぱく質を意識して摂取しましょう。
 1日の摂取目標: 体重1kgあたり1.06g。
 多様な食材から: 魚、肉、卵、牛乳などの乳製品、納豆などの豆類。
 CaやビタミンD: カルシウムやビタミンDも一緒に摂取。
 高齢者は1回の摂食量が少なく消化吸収機能も低下しているので、間食のおやつでプリン、ヨーグルト、チーズを食べることも有用です。

 筋肉量を維持することは高齢者の転倒予防、水分保持に有用です。
なお適度の運動も必要です。

(2021年10月6日 公開)


病気の悩みを漢方で

谿 忠人 先生

大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了

  • 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
  • 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
  • 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
  • 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
  • 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
  • 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
  • 大阪大谷大学名誉教授。
  • 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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