きぐすり.com は、漢方薬、女性の健康、サプリメント、ハーブの情報を専門家がやさしく解説しています。
病気の悩みを漢方で
血の道症
1.産後の不調・回復不全
出産後1~2ヶ月の産褥期(サンジョクキ)には、母体に分娩時の出血と痛みによる疲労や体力の低下、育児による不安や情緒不安定などが重なります。産後の情緒不安定(不安や気うつ傾向)はマタニティー・ブルーとも言われます。
産後の回復が悪く不調が続く主な要因は体力の低下ですから、気力と栄養の不足(虚証 キョショウ)を補い、患者さんの訴えをよく聴いて治療する漢方医療の適した領域です。
2.産後の不調の漢方医学の病理・病態
産後の不調の病態を漢方医学の気(キ)・血(ケツ)・水(スイ)論で整理すると、図1のようになります。主な病理は、
・精神・生命活動の低下による疲労倦怠感、だるさ、冷え症などの気虚(キキョ)
・循環・滋養機能の低下による顔色の悪さ、動悸、めまい、不眠などの血虚(ケッキョ)と、
・気うつ感、不安、イラダチなど精神神経症状を伴う気滞(キタイ)
です。
3.産後の不調に用いられる基本処方・・・芎帰調血飲(キュウキチョウケツイン)
産後の心身の不調に用いられる基本方剤は、芎帰調血飲(キュウキチョウケツイン)です。
芎帰調血飲は、胃腸の消化吸収力を調えて気力と栄養を補い、血の巡りをよくして体力の回復をはかる方剤です。本方には、子宮を収縮して悪露(オロ:産後の子宮や膣から排泄される血液や分泌物)の排泄を促進し、産後の乳汁分泌を促進し、うつ傾向の精神神経症状を改善する作用もあります。
図1には産後の不調の主な病理として気虚と血虚と気滞と瘀血(オケツ)が関与することを示しました。この病理病態を調整する生薬を含む方剤が芎帰調血飲(キュウキチョウケツイン)です(図2)。
芎帰調血飲に関する解説は、血の道症(4)月経不順(3:周期が不定)にもあります。
4.芎帰調血飲(キュウキチョウケツイン)の主な配合生薬
5.帰脾湯(キヒトウ)・・・産後の神経症(心身の疲れ、不安、動悸、不眠)
産後に心身が疲れ、不安感や不眠や動悸や冷え症に悩み、貧血傾向で血色が悪い人には帰脾湯(キヒトウ)も適します。物音に驚きやすい人に適します。本方は胃腸の消化吸収力を調えて体力をつけて、疲労倦怠感や不安感や不眠を軽減するための漢方方剤です。
帰脾湯は芎帰調血飲の適する人より胃腸機能が低下し、心も身体も疲れ、冷え症傾向の強い人に適します。疲労感や不安感や不眠の症状は共通しています。
帰脾湯は体力の低下した人のストレス疲れや気うつ、不眠を伴う無月経にも用いられます。血の道症(6)無月経を参照してください。
帰脾湯と同様の適応症状があり、さらにイラダチ、冷えのぼせ、ほてり、気うつ、胸苦しい、などやや熱証傾向の精神神経症状があれば、柴胡(サイコ)と山梔子(サンシシ)を加味した加味帰脾湯(カミキヒトウ)が適します。
6.帰脾湯(キヒトウ)の配合生薬
帰脾湯の配合生薬は
・胃腸虚弱を調える黄耆(オウギ)、人参(ニンジン)、白朮(ビャクジュツ)
・不安感、不眠、動悸、気うつ感を軽減する酸棗仁(サンソウニン)、遠志(オンジ)
が主体となっています(図3)。
黄色の枠で囲んだ補気薬と水色の枠で囲んだ理気薬(安神薬アンシンヤク)が中心になっています。なお、竜眼肉、大棗にも補血の薬能があります。
7.瓊玉膏(ケイギョクコウ)…産後の体力回復と皮膚と髪の毛の美容に
産後の不調・回復不全を回復させるための重要な生薬は、人参(ニンジン)と地黄(ジオウ)です。
この人参と地黄を主薬とする生薬製剤が瓊玉膏(ケイギョクコウ)です。
瓊玉膏には配合生薬の異なる製品が市販されていますが、
・消化機能を調えて体力元気を回復させる人参(ニンジン)と茯苓(ブクリョウ)、
・貧血傾向を改善し、皮膚と髪の毛に潤いを回復させる地黄(ジオウ)
・栄養素であり便通を調えるハチミツ
は共通して含まれています。さらに、
・視力の低下を回復させる枸杞子(クコシ)
・気を巡らすせて気うつ感を軽減する沈香(ジンコウ)の含まれている製剤もあります。
瓊玉膏の「効能・効果」は、「食欲不振、肉体疲労、虚弱体質、病後の体力低下、胃腸虚弱、血色不良、冷え症、発育期」の滋養強壮です。
産後の不調・回復不全に適した生薬製剤です(第2類医薬品)。漢方の専門薬局で相談してください。
産後の養生の基本は食べることです。産後の回復不全は、「産後の肥立ち」が悪い、といわれてきました。「肥立ち」は、出産後に肥えて回復するということです。
体力を回復するためにも、授乳のためにもしっかり食べなければいけません。食が進まない時には胃腸機能を調えて食欲を増す効果のある六君子湯(リックンシトウ)が適します。
産褥期の便秘には、体力の余裕がないので強い下剤を避けます。緩下剤の小建中湯(ショウケンチュウトウ)や桂枝加芍薬大黄湯(ケイシカシャクヤクダイオウトウ)が有用です。
病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
漢方医療とは
- (1)現代医療における漢方製剤
- (2)漢方薬局における診察
- (3)漢方薬局における診断(1)虚実と寒熱
- (4)漢方薬局における診断(2)気血水
- (5)漢方薬局における診断(3)病期
- (6)漢方薬局における診断(4)五臓
- (7)漢方処方の剤形
- (8)漢方医療と民間療法
- (9)セルメと健康相談
症状と漢方薬
- (あ行)
- RSウイルス
- 足腰の衰え(虚弱)
- 足のむくみ
- アトピー性皮膚炎
- アルコール性肝炎
- アルツハイマー型認知症
- アレルギー性鼻炎
- 胃食道逆流症
- 胃腸かぜ
- 胃腸虚弱
- 胃腸虚弱(高齢者)
- 胃腸虚弱(フレイル)
- 胃痛
- 胃もたれ
- 意欲の低下
- 意欲低下(虚弱)
- イライラ
- イライラ(産後)
- インフルエンザ
- インポテンツ
- ウイルス肝炎
- うつ感
- 運動器症候群
- 円形脱毛症
- おしっこの悩み(前立腺肥大)
- (か行)
- 顔色不良(虚弱)
- 過活動膀胱
- 過換気症候群(過呼吸)
- 霍乱
- かぜ(風邪)
- 肩・首筋のこり
- 過敏性腸症候群
- 下部尿路症状
- 花粉症
- がん
- かんしゃく
- 関節痛(冷え症)
- 関節リウマチ
- 感染性胃腸炎
- 乾燥肌
- 肝臓病
- 気うつ
- 気うつ(産後)
- 気管支炎
- 機能性ディスペプシア
- 虚労
- 起立性調節障碍
- 緊張型頭痛
- 筋肉減少症
- 軽度認知障碍
- 月経周期の乱れ
- 月経痛(冷え症)
- 月経痛(冷えのぼせ症)
- 月経不順(周期の長短)
- 月経不順(血の道症)
- 月経前症候群(PMS)
- げっぷ
- 下痢
- 下痢(ゲンノショウコ)
- 高血圧
- 高血圧傾向(虚弱)
- 高血糖
- 好酸球性副鼻腔炎
- 口内炎
- 後鼻漏
- 高齢者
- 五十肩
- 呼吸困難(COPD)
- こじれた咳(感冒)
- 骨粗鬆症
- 子どもがほしい
- こむら返り
- コロナ後遺症
- (さ行)
- サルコペニア
- 産後の回復不全
- 残尿感(前立腺肥大)
- CFS(慢性疲労症候群)
- COPD(慢性閉塞性肺疾患)
- 湿疹
- 脂肪肝
- しもやけ
- しゃっくり
- 主婦湿疹
- 暑気あたり
- 女性不妊
- 自律神経失調症
- 脂漏性湿疹
- 尋常性乾癬
- 尋常性ざ瘡
- 頭重感
- 頭痛
- 頭痛(しめつける痛み)
- 頭痛(低気圧)
- 頭痛(婦人更年期障碍)
- ストレス胃
- 生理痛(冷え症)
- 生理痛(冷えのぼせ症)
- 生理不順(血の道症)
- 精力低下(男性)
- せき(咳)
- 咳(こじれた感冒)
- 脊柱管狭窄症
- 喘息
- 喘息(発作)
- 喘息(寛解)
- 前立腺肥大
- GERD
- (た行)
- たん(痰)
- 男性更年期障碍
- 男性不妊
- 蓄膿症
- 血の道症
- チック
- 痛風
- 手足口病
- 手足のしびれ(糖尿病)
- 低気圧頭痛
- 天気痛
- 動悸
- 凍瘡
- 糖尿病
- (な行)
- 内臓脂肪症候群(糖尿病)
- ながびく咳(感冒)
- 夏かぜ
- NASH
- 夏バテ
- 夏やせ
- 2型糖尿病
- にきび
- 尿意切迫
- 尿失禁
- 尿路結石
- 尿路不定愁訴
- 妊娠力をつけたい
- 認知症
- 脳血管性認知症
- 熱中症
- 脳梗塞と脳出血
- のぼせ感
- ノロウイルス下痢
- (は行)
- 肺気腫(COPD)
- 排尿異常
- 鼻アレルギー
- 鼻かぜ
- 鼻づまり
- 鼻水
- 非アルコール性肝炎
- 冷え症
- 冷えのぼせ症
- 鼻炎
- 皮膚炎
- 皮膚瘙痒症
- 肥満
- 肥満(糖尿病)
- 疲労感
- 頻尿
- PMS(月経前症候群)
- 不安定膀胱
- プール熱
- 腹痛
- 副鼻腔炎
- 婦人更年期障碍
- 不眠
- 不眠(産後)
- フレイル(虚弱)
- ヘルパンギーナ
- 変形性膝関節症
- 片頭痛
- 便通異常
- 便秘
- 膀胱結石
- (ま行)
- マタニティー・ブルー
- 慢性胃炎
- 慢性気管支炎(COPD)
- 慢性の咳(COPD)
- 慢性疲労症候群(CFS)
- 慢性閉塞性肺疾患
- むくみ(足のむくみ)
- 無月経
- 胸やけ
- メタボ肥満
- メタボリック・シンドローム(糖尿病)
- めまい
- めまい(婦人更年期障碍)
- (や行)
- 夜間頻尿
- やせと栄養失調
- 腰痛
- 抑うつ感
- 抑うつ感(虚弱)
- 夜泣き
- (ら行)
- 冷房下痢
- 老年症候群
- ロコモ
漢方薬名を選ぶ!
- 柴胡加竜骨牡蛎湯(サイコカリュウコツボレイトウ)
- 柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ)
- 柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)
- 柴胡清肝湯(サイコセイカントウ)
- 三黄瀉心湯(サンオウシャシントウ)
- 滋陰降火湯(ジインコウカトウ)
- 四逆散(シギャクサン)
- 十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ)
- 潤腸湯(ジュンチョウトウ)
- 小柴胡湯(ショウサイコトウ)
- 小青竜湯(ショウセイリュウトウ)
- 消風散(ショウフウサン)
- 辛夷清肺湯(シンイセイハイトウ)
- 清上防風湯(セイジョウボウフウトウ)
- 清暑益気湯(セイショエッキトウ)
- 清心蓮子飲(セイシンレンシイン)
- 清肺湯(セイハイトウ)
- 疎経活血湯(ソケイカッケツトウ)