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病気の悩みを漢方で

血の道症
1.月経不順と漢方医療の病理病態

月経周期が平均の28日より10日も遅れたり、早くなったり、周期が一定しない場合が月経不順です。なお周期は,1週間程度の変動があります。
漢方医療では、月経不順の病態を「気(キ)・血(ケツ)・水(スイ)」の機能や循環の失調で考えます。
この中の、循環障害に相当する瘀血(オケツ)や貧血傾向に相当する血虚(ケッキョ)という血の異常の関与が大きいので月経不順は「血の道症」に含まれます。
さらに「血の道症」には、ストレスの関与が大きく、気うつ感やイラダチなど情緒不安定傾向を伴うので気滞(キタイ)や気逆(キギャク)の病理も関与しています。
なお気血水に関しては、総論(4:気血水)を参照してください。さらに血の道症の漢方病理については、血の道症(1)に整理しています。
2.月経不順に用いられる主な漢方方剤(まとめ)
この「病気の悩みを漢方で」では、図1に示したように月経不順に関連する方剤を既に解説してきました。それぞれの項目を参照してください。
- 血の失調を調整する基本方剤の温経湯(ウンケイトウ)は、主に周期が長くなる傾向に用いられますが短くなる場合にも適します。…血の道症(2)
- 周期が短い傾向の温清飲(ウンセイイン)と長くなる傾向の十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ)…血の道症(3)
- 周期が一定せず乱れる傾向の加味逍遙散(カミショウヨウサン)と芎帰調血飲(キュウキチョウケツイン)…血の道症(4)

3.八味地黄丸(ハチミジオウガン)…周期の遅れる月経不順を調整
今回は、図1の右下に記した腎虚(ジンキョ)による周期の遅れを調整する八味地黄丸(ハチミジオウガン)を解説します。
腎虚の人は、初潮が遅れて、その後、経血量が少なく周期が遅れ気味になります。さらに手足が冷えて、疲労感があり気力が充実しないことが多く、皮膚は乾燥傾向のような病態に八味地黄丸が適します。
4.八味地黄丸に配合される補腎薬
八味地黄丸の適応症状の中で、
・皮膚の乾燥傾向を調整する主な補腎薬(ホジンヤク)として地黄(ジオウ)と山茱萸(サンシュユ)があり、
・冷え症や冷えによる痛み・しびれ、頻尿を調整する補腎薬は附子(ブシ)です。

5.八味地黄丸と十全大補湯の使いわけ
周期の遅れる月経不順には十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ)も用いられます。八味地黄丸と十全大補湯を使いわける目安は、胃腸症状の有無です。日頃から食が細いなど胃腸症状を有する場合には十全大補湯が適します。

月経不順を軽減するために各種の方剤を使いわけには漢方医学的な病態判断が必要です。漢方医療は、1)どのような人の、2)どのような症状が発現し、3)その病理は何かを診断して、4)その時点に適切な治療方針や治療薬を選ぶことです。
月経不順では気血水の失調が絡み合って発現します。これを判断するためには、月経周期の遅れ以外の色々な症状に患者する情報が必要になります。漢方医療に詳しい薬剤師さんに相談してください。

過度のダイエットのような食事制限によって体力が低下した栄養不足の病態が続くと月経が遅れ、さらに無月経になり、不妊につながります。
このような体力不足には食生活を調えながら十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ)を服用してください。
病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。


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