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病気の悩みを漢方で
麻黄湯(マオウトウ)
1.麻黄湯(マオウトウ)の名前
麻黄湯の名は、麻黄(マオウ:図1)が主薬であることを意味しています。
麻黄の薬能は、外感病(ガイカンビョウ)初期の悪寒(オカン:寒け)発熱、頭痛、節々の痛みを軽減する辛温解表(シンオンゲヒョウ)と、呼吸困難(喘)と咳嗽に用いられる宣肺平喘です。むくみを軽減する利水(リスイ)の薬能もあります。
外感病は、感冒などの感染症に相当します。病期を参照してください。
2.麻黄湯の配合生薬
麻黄湯の配合4生薬を図2に示します 。
桂皮(ケイヒ)と麻黄は、外感病初期症状(悪寒、発熱、頭痛)に用いられる基本的な薬対です。
麻黄と杏仁(キョウニン)は、呼吸困難と咳嗽を軽減する薬対です。
甘草(カンゾウ)には、補気(ホキ)止咳、諸薬調和の薬能があります。
このことから方剤名は、本方が感染症(普通感冒やインフルエンザ)、初期の上気道症状や全身症状に適することを示唆しています。
3.麻黄湯の適応
3.1)普通感冒(かぜ)初期の寒け(悪寒)と発熱が同時にあり、咳嗽、頭痛や節々の痛みに用いられます。自然発汗のない状態が使用目標です。
かぜ(1)を参照してください。
麻黄湯は、夏季の上気道炎の初診時に頻用されています(日東医誌., 1993; 43: 509-515)。本方は、有熱かぜ症候群に対し、解熱薬より全身症状の消失が早いことが報告されています(日東医誌.,1995; 46: 285-291)。
3.2)インフルエンザへの応用
麻黄湯は、インフルエンザの初期(悪寒、発熱、頭痛、関節痛)に使用されています(日東医誌., 1993; 43: 509-515)。最近では抗インフルエンザ薬と併用されています。
・A型、B型インフルエンザ患者の全身症状消失時間は、抗インフルエンザ薬(オセルタミビル)と同程度。
小児科臨床. 2008; 61: 1057-1062
・抗インフルエンザ薬(オセルタミビル)と併用。
治療学. 2006; 40(4): 37-40
麻黄湯が、抗インフルエンザ薬とは異なる抗ウイルス作用を有することも解明されつつあります(Organ Biology. 2018; 25: 56-70)。
麻黄湯製剤の用法用量:
・麻黄湯は、抗インフルエンザ薬と同じように、発症後の48時間以内に服用を開始するのが望ましい。
日本病院総合診療医学会雑誌. 2013; 5: 5-9
・医療用麻黄湯製剤の 【効能又は効果】には、感冒、インフルエンザ(初期のもの)と投与時期が明記されている。
麻黄湯製剤の頻回投与:麻黄湯は、かぜやインフルエンザ初期には発汗するまで2時間毎に3回服用し、その後、3時間毎に3回服用する。発汗して気分が良くなればそれ以降の服用を中止。
漢方の臨床. 2014; 61: 439-442
3.3)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への応用
・COVID-19感染症初期の悪寒発熱を軽減。
日東医誌., 2021; 72: 204-207
・コロナワクチン接種後の悪寒発熱、頭痛、関節痛を軽減。
漢方の臨床. 2022; 69: 101-108
3.4)鼻炎、鼻閉:
麻黄湯製剤の【効能又は効果】には、乳児の鼻閉塞が記載されています。
・点鼻薬の連用による点鼻薬性鼻炎を軽減。
Prog. Med., 1995; 15: 1482-1485
・鼻閉を小青竜湯より早く軽減。
日鼻誌., 2008; 47: 86-87
4.麻黄湯の関連方剤
感染症初期の呼吸器症状に用いられる麻黄湯の関連方剤を図3に示します。
4.1)桂麻各半湯(ケイマカクハントウ:7味)は、桂枝湯と麻黄湯の合剤です(図4)。
桂麻各半湯は、かぜ急性期の桂枝湯と麻黄湯の適応となる悪寒、発熱、頭痛に用いられます。夏期上気道炎やインフルエンザの初診時に用いられています(日東医誌., 1993; 43: 509-515)。
エキス製剤では、桂枝湯と麻黄湯を併用して代用されています(赤ら顔、自汗、口渴なしのかぜ:日東医誌., 2010; 61: 63-67)。
桂枝湯と麻黄湯を併用する狙いは、桂枝湯の解表効果を強化する狙いや、麻黄湯の作用を緩和する狙い、などと考えられています。
4.2)大青竜湯(ダイセイリュウトウ:7味)は、麻黄湯の適応となる悪寒、発熱、頭痛、関節痛に症状に加えて、熱が高く口渴があり、重だるく、座っておれないほどのつらい症状のある病態に適します。
本方は、麻黄と清熱薬の石膏を含みます(図5)。
大青竜湯(麻杏甘石湯+桂枝去芍薬湯)は、エキス製剤では、
・麻黄湯と越婢加朮湯(エッピカジュツトウ)の併用(日東医誌., 2009; 60: 611-616)や
・桂枝湯と麻杏甘石湯(マキョウカンセキトウ)の併用(日東医誌., 2010; 61: 59-62)で代用されます。
これらの併用は、麻黄の服用量が多くなるので、交感神経刺激作用による副作用(動悸、排尿障碍、血圧上昇)の発現に注意してください。
4.3)麻杏甘石湯は、麻黄湯の桂皮の代わりに清熱薬の石膏を含みます(図6)。かぜ(4)を参照してください。
麻杏甘石湯は、麻黄湯より口渴があり粘稠性の喀痰(熱痰)を伴う咳嗽に適します。かぜ亜急性期(日東医誌., 2000; 50: 655-663)、インフルエンザ(日東医誌., 2013; 64: 289-302)、新型コロナウイルス(漢方の臨床. 2020; 67: 993-998)などの呼吸困難や咳嗽に用いられています。
麻黄湯の口訣(抜粋)
・本方は、かぜの代表的な薬方です。汗が出ていないのが大事です。麻杏甘石湯は口渴と汗があります。本方と小柴胡湯の往来症もあります。(三谷和合)。
・本方は、発汗させることにより体表の風寒の邪を除き、肺気の流通を良好にして咳嗽や呼吸困難を緩和する発汗解表、宣肺平喘剤(三浦於菟)。
・本方は、体力のある人のかぜ症候群の急性期に用いる。インフルエンザの急性期には抗ウイルス薬と併用する。赤ら顔で無汗状態に用いる(巽浩一郎)。
(2024年9月30日 公開)
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病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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