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病気の悩みを漢方で

漢方薬名の意味

五積散(ゴシャクサン)

1.五積散(ゴシャクサン)の謂われ・・・五種の病邪の積み重なりに用いる散剤

 五積散(ゴシャクサン)の(シャク)は停滞するという意味です。停滞する五種類の病邪とは、(キ)・(ケツ)・(タン)・(カン)・(ショク)です。

 なお、五臓(肝・心・脾・肺・腎)の機能の停滞という解釈もあるようです。

2.五積散の適応・・・冷えによって悪化する慢性の諸症状(腰痛、関節痛)

 一般用五積散製剤の【効能又は効果】には、体力中等度又は虚弱で、冷えがあるものの次の諸症:胃腸炎、腰痛、神経痛、関節痛、月経痛、頭痛、更年期障碍、感冒。と多岐にわたる適応症が記載されています。

 これらの症状は寒冷刺激で悪化する傾向にあります。

 五積の中で、とくにが停滞して発症する腹部膨満感、嘔気、手足の冷え、腰痛、関節痛、神経痛、月経痛、腹痛に用いられることが多いようです。

 本方は、これらの症状に対する第一選択薬剤ではなく、高齢者の腰の冷えや痛みに対する常備薬的に連用されます。

3.五積散の配合生薬

 現在の日本で使用されている五積散(ゴシャクサン)には、15~18生薬を含む製剤があります。

 多くの生薬の中で配合比率の高いのは、次の5種類です。

 蒼朮(ソウジュツ)、茯苓(ブクリョウ) ・・・(スイ)の停滞を軽減(胃腸虚弱も調整)
 半夏(ハンゲ)、陳皮(チンピ) ・・・(タン)の停滞を軽減(食の停滞も軽減)
 当帰(トウキ) ・・・(ケツ)の停滞を軽減(冷え症も軽減)

それぞれ、五積(ゴシャク)の中の(スイ)、(タン)、(ケツ)を軽減する生薬です。

 青字で表記している生薬は、温める薬能を意味しています。

 五積散(ゴシャクサン)の配合量の多い生薬は、二陳湯(ニチントウ)や平胃散(ヘイイサン)の主な生薬です。このことから本方は胃腸機能調整を主体にしていると考えられます。

 当帰(トウキ)は当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)や四物湯(シモツトウ)などの主要生薬ですから、婦人科領域の冷えを伴う症状にも適する内容になっています。

4.五積散に含まれる関連方剤

 五積散(ゴシャクサン)の配合生薬を組み合わせて構成できる主な方剤は、以下のようです。このようなことから、本方は多岐にわたる症状に用いられます。

桂枝湯(ケイシトウ) ・・・体力虚弱な人のかぜの初期症状。
二陳湯(ニチントウ) ・・・悪心、嘔吐(胃部不快感)を伴う慢性胃炎。
平胃散(ヘイイサン) ・・・胃もたれ、嘔気、下痢の傾向の急・慢性胃炎。
苓姜朮甘湯(リョウキョウジュツカントウ) ・・・腰から下肢の冷えを伴うと腰痛、神経痛。
苓桂朮甘湯(リョウケイジュツカントウ) ・・・めまい、立ちくらみ、のぼせや動悸、頭痛。

 五積散は、冷えを自覚する妊婦の正常分娩に寄与した報告があります。

 は、妊娠37週以降で冷えを自覚し難産の危惧される妊婦の冷えを改善し頸管の熟化を促進して母児ともに順調な正常分娩をもたらした

症例集積研究 産婦人科漢方研究のあゆみ. 2015; 32: 79-84.

 五積散が冷えを改善し血流を増加させ頸管の熟化する環境を整えたと考察されています。
 本方の出典の『和剤局方』には、婦人難産に用いることが記されています。
 本方の婦人科領域への応用は、婦人更年期障碍(8)も参照してください。

ちょっと一言:(トピックス)

五積散(ゴシャクサン)の応用

 五積散は、冷えによって引き起こされる多様な慢性の症状群に適する便利な漢方方剤です。胃腸を調える生薬の配合量が多いので、連用に適しています。

 エキス製剤は(冷水ではなく)温湯で服用するのがよいでしょう。

 この多様な症状に適することが五積散の特徴でありますが、個々の生薬の配合量が少なくなっていますので、症状の激しい場合には即効性(効果の切れ味)に欠けるという欠点にもなります。

 特定の症状に用いる場合には、他の方剤と組み合わせて用いられます。例えば、痛みの程度が強い場合には、腹痛なら芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)、関節痛なら附子(ブシ)末が併用されます。


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病気の悩みを漢方で

谿 忠人 先生

大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了

  • 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
  • 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
  • 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
  • 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
  • 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
  • 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
  • 大阪大谷大学名誉教授。
  • 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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谿 忠人先生

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