病気の悩みを漢方で

１．帰脾湯（ｷﾋﾄｳ）･･･（不足した気を）脾に帰す（ｶｴｽ）

　帰脾湯（ｷﾋﾄｳ）の名は（不足した気ｷを）脾（ﾋ）に送り帰すという薬能に由来します。
　あるいは帰を当帰（ﾄｳｷ）と読めば､補血薬（ﾎｹﾂﾔｸ）の当帰を含み､脾の機能を調整する補血補気剤（ﾎｹﾂﾎｷｻﾞｲ）とも解釈できます。
　漢方五臓論の脾は､食物を消化吸収し生命活動エネルギーの気を生成する機能単位です。帰脾湯はこの機能を補う補気薬（ﾎｷﾔｸ）の人参（ﾆﾝｼﾞﾝ）と黄耆（ｵｳｷﾞ）を含みます。

２．帰脾湯の適応･･･胃腸虚弱で血色が悪い､疲労感､不眠

　帰脾湯は､食が細く､心身が疲れて血色の悪い人の不安感､意欲低下､不眠､動悸､抑うつ傾向に用いられます。
　本方は高齢者の虚弱状態の改善に用いられることが多い方剤です。
　フレイル（６）や不眠（３）を参照してください。

　帰脾湯がアルツハイマー型認知症患者の見当識と注意力を改善した報告があります。
見当識は､日付や時間､自分の居場所､現在の状況を認識する機能です。

３．帰脾湯（ｷﾋﾄｳ）の配合生薬

　　　帰脾湯の配合生薬を図１に示しました。

　帰脾湯の構成は､
１）胃腸を調える四君子湯（ｼｸﾝｼﾄｳ：図１下段の６生薬）と中段の黄耆を含む補気薬が基軸です。
２）上段の酸棗仁（ｻﾝｿｳﾆﾝ）と竜眼肉（ﾘｭｳｶﾞﾝﾆｸ）と中段の当帰は補血薬です。さらに、
３）上段の酸棗仁と竜眼肉と遠志（ｵﾝｼﾞ）は不安や抑うつ感､不眠を軽減する安神薬（ｱﾝｼﾝﾔｸ）です。

　帰脾湯の特徴になるのは図２の３生薬です。

４．帰脾湯の関連方剤

4.1）加味帰脾湯（ｶﾐｷﾋﾄｳ）は、帰脾湯の適する病態に胸苦しさ､いらだち、のぼせなどの精神症状があるときに用いられます。認知症の漢方（４）を参照してください。

　本方は､帰脾湯に理気薬（ﾘｷﾔｸ）の柴胡（ｻｲｺ）と降気薬（ｺｳｷﾔｸ）の山梔子（ｻﾝｼｼ）を加味した方剤です（図３）。

4.2）人参養栄湯（ﾆﾝｼﾞﾝﾖｳｴｲﾄｳ）は、疲労倦怠感､顔色不良､不眠など帰脾湯と同様の虚弱状態に用いられます。人参養栄湯は咳嗽にも適することが帰脾湯との相違です（図４）。
漢方薬名の意味：人参養栄湯も参照してください。

4.3）酸棗仁湯（ｻﾝｿｳﾆﾝﾄｳ）は、疲れた人の不眠に用いられる酸棗仁の配合剤という点で帰脾湯に類似します。
　帰脾湯は酸棗仁湯より胃腸虚弱の人にも適する内容になっています。
婦人更年期障碍の漢方（11）も参照してください。