病気の悩みを漢方で

１. がん患者の不安と抑うつ感

　がんと診断された患者さんは苦痛や死を怖れて不安になります。さらに､治療を続ける中で体力が低下し不安や抑うつ感は高まります。
　このような苦悩相談に対して主治医をはじめ腫瘍精神科医､臨床心理士､看護師などの緩和ケアチームが対応しています。
　ここでは､この時に活用されている漢方製剤を考えます（図１）。

　柴胡加竜骨牡蛎湯と関連する柴胡桂枝乾姜湯（ｻｲｺｹｲｼｶﾝｷｮｳﾄｳ）は、男性更年期障碍の漢方（２）いらだち､気うつを参照してください。
　ここでは消化器症状を伴うがん患者に適した帰脾湯（ｷﾋﾄｳ）のような方剤を中心にして解説します。

２. 帰脾湯（ｷﾋﾄｳ）と関連方剤

2.1）帰脾湯（ｷﾋﾄｳ）は､胃腸を調える四君子湯（ｼｸﾝｼﾄｳ：図２の黄色枠の６生薬）が基本になり､虚弱状態の改善に寄与します。

　帰脾湯には不安､抑うつ感､不眠を軽減する図３の安神薬（ｱﾝｼﾝﾔｸ）も含まれています。

　帰脾湯は胃腸虚弱､貧血傾向で体力や意欲が低下した人の不安と抑うつ感と不眠に適します。
　やせと栄養失調の漢方（３）がんを参照してください。

2.2）加味帰脾湯（ｶﾐｷﾋﾄｳ）は､帰脾湯に柴胡（ｻｲｺ）と山梔子（ｻﾝｼｼ）を加味した方剤です。
　本方は、帰脾湯の適応症状（倦怠感､貧血傾向､不安､抑うつ感､不眠）に加えて､のぼせやいらだちを伴う場合に適します。
　認知症の漢方（４）軽度認知障碍を参照してください。

2.3）酸棗仁湯（ｻﾝｿｳﾆﾝﾄｳ）は､心身が疲れた人の不安､胸苦しさ､焦り､怯えを伴う入眠困難や熟眠障碍に用いられます。主薬の酸棗仁（ｻﾝｿｳﾆﾝ）が不安や不眠の軽減に寄与しています。
　不眠の漢方（３）不安と夢を参照してください。

３. 半夏厚朴湯（ﾊﾝｹﾞｺｳﾎﾞｸﾄｳ）と香蘇散（ｺｳｿｻﾝ）

3.1）半夏厚朴湯は､気分がふさぎ､抑うつ傾向の人の吐き気､咽喉や食道部の異物感を伴う不安や不眠に頻用される方剤です（図４）。
　胃食道逆流症の漢方（３）理気化痰剤を参照してください。

　半夏厚朴湯は小柴胡湯（ｼｮｳｻｲｺﾄｳ）と合方した柴朴湯 （ｻｲﾎﾞｸﾄｳ）として､ストレスがうっ積した抑うつ感に用いられます。
フレイルの漢方（５）抑うつ感を参照してください。

3.2）香蘇散は､胃腸虚弱傾向の人が意気消沈し気分が晴れず頭重を感じる時に適します。香附子（ｺｳﾌﾞｼ）が抑うつ傾向の軽減に寄与しています。本方は、半夏厚朴湯と併用されます。