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病気の悩みを漢方で
がんの漢方
1.周術期医療を補完する漢方製剤
周術期医療は手術前後の患者を管理する医療です。ここでは、がんの切除手術後の主な苦悩や問題(図1)を軽減するための漢方製剤を紹介します。
なお、がん性疼痛(とくに内臓痛)の軽減にはWHO方式がん疼痛治療法が確実です。
(漢方製剤の痛み止めとしての使用は補助的になります)。
2.六君子湯(リックンシトウ)と茯苓飲(ブクリョウイン)
2.1)六君子湯(リックンシトウ)は、胃切除術後の胃もたれ、吐き気、食欲不振を軽減するために用いられています。図2の青字で示したように食欲増進ホルモンのグレリンを介する薬理も寄与しています。
図2は胃もたれを主症状とする機能性ディスペプシアに用いられてきた六君子湯の実績を踏まえた応用例です。
機能性ディスペプシアの漢方を参照してください。
2.2)茯苓飲(ブクリョウイン)も、幽門温存胃部切除術後のげっぷ、胃膨満の軽減に用いられています(四逆散 シギャクサンと併用)。
茯苓飲には六君子湯と同様にグレリンの機能を高める陳皮(チンピ)が配合されています。
六君子湯と茯苓飲に関しては胃食道逆流症の漢方(2.基本方剤)も参照してください。
3.大建中湯(ダイケンチュウトウ)・・・腹部術後の麻痺性腸閉塞
大建中湯(ダイケンチュウトウ)は、腹部術後の麻痺性の腸閉塞(チョウヘイソク:イレウス)や腹痛、ガス膨満、便秘などの下腹部症状に用いられています。その薬理作用の解明も進んでいます(図3)。
大建中湯は、現代では外科領域でもっとも多く使用されている漢方製剤です。古い漢方薬が現代の周術期医療で成果をあげた事例です。
漢方薬名の意味:大建中湯も参照してください。
4.抑肝散(ヨクカンサン)・・・術後のせん妄(興奮、錯乱、不眠)
抑肝散(ヨクカンサン)は術後のせん妄に使用されています(図4)。せん妄は、一時的な錯乱状態です。暴言などの不穏行動、点滴管の抜去などの危険行動は、患者の回復を遅らせ、治療者の負担となります。
抑肝散の鎮静効果は日常活動を過剰に抑制しないので西洋の鎮静薬より有用性が高いと評価されています。
抑肝散は、神経の高ぶり、怒り、いらだち、痙攣を伴う小児の夜泣き、不眠、疳症(神経症)の処方として創案されました。現代では、
認知症の漢方(3.アルツハイマー型認知症)を参照してください。
5.補中益気湯・・・術前投与で術後の抗菌薬の使用量節減
補中益気湯(ホチュウエッキトウ)を術前に投与しておくと術後の免疫抑制状態を軽減し、感染症対策に使用する抗菌薬の使用量を節減できることが報告されています。
患者の活動状態(PS)と体力の虚証
活動状態(PS:Performance Status、パーフォーマンス・ステータス)は患者さんの全身状態(体力の余力)を診る指標です。PSは、
・日常生活が制限なく行えるPS0から、
・終日ベッド上で生活する要介護状態PS4、まで5段階で評価され、手術の可否や治療手段を選ぶ指標になります。
PS4は、漢方医学の体力の虚証に相当します。現代医療にも漢方と同様に体力の余力の程度を診る視点があるのです。
(2020年9月14日 公開)
病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
漢方医療とは
- (1)現代医療における漢方製剤
- (2)漢方薬局における診察
- (3)漢方薬局における診断(1)虚実と寒熱
- (4)漢方薬局における診断(2)気血水
- (5)漢方薬局における診断(3)病期
- (6)漢方薬局における診断(4)五臓
- (7)漢方処方の剤形
- (8)漢方医療と民間療法
- (9)セルメと健康相談
症状と漢方薬
- (あ行)
- RSウイルス
- 足腰の衰え(虚弱)
- 足のむくみ
- アトピー性皮膚炎
- アルコール性肝炎
- アルツハイマー型認知症
- アレルギー性鼻炎
- 胃食道逆流症
- 胃腸かぜ
- 胃腸虚弱
- 胃腸虚弱(高齢者)
- 胃腸虚弱(フレイル)
- 胃痛
- 胃もたれ
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- 意欲低下(虚弱)
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- イライラ(産後)
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- 喘息(寛解)
- 前立腺肥大
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- (た行)
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