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病気の悩みを漢方で

足のむくみの漢方
1.足のむくみ(下肢の浮腫)
むくみ(浮腫)は組織に水がたまった状態です。血管内の水は血管外の組織細胞に栄養を送る役割を担っています。組織の老廃物を含んだ水はリンパ管や血管に還流し回収されます。
むくみは、1)血管から水が過剰に漏れ出ることと、2)水の回収(還流)機能が低下することで発症します(図1)。

2.足のむくみの漢方病理と治療方針
むくみの主な漢方病理は、水滞(スイタイ)です。治療は停滞した水を血管に還流する利水剤(リスイザイ)の五苓散(ゴレイサン)が基本になります。
病態に応じて清熱(セイネツ)や循環機能を促進のために補気(ホキ)理気(リキ)活血(カッケツ)も必要です。冷えを伴えば散寒(サンカン)も必要になります。
むくみは全身に発現しますが、今回は足(下腿、下肢)のむくみに用いられる常用方剤を考えます。冷えを伴うむくみは次回に解説します。
3.利水剤:五苓散(ゴレイサン)とその関連方剤
3.1)五苓散は、むくみに用いられる代表的な利水剤です(図2)。

本方は、二日酔い様症状(頭痛、吐き気、口渴、むくみ)が投薬目標です。急性胃腸炎の吐き下しや低気圧頭痛にも用いられます。霍乱や頭痛(6)を参照してください。
五苓散の高齢者の軽度足背浮腫に対する有効性が検証されています。
五苓散と柴苓湯の、高齢者の軽度足背浮腫に対する有効性の比較。
「やや有効以上」の有効率は五苓散先行群(五苓散・2週間投与後柴苓湯2週間投与: 67%)、柴苓湯先行群(62%)で有意差はなかった。
ランダム化比較試験(cross over) 漢方の臨床. 1997; 44: 1091-5.
3.2)柴苓湯(サイレイトウ)は、五苓散と和解剤(ワカイザイ)の小柴胡湯(ショウサイコトウ)との合剤です。小柴胡湯には清熱の薬能もあるので、柴苓湯は炎症を伴うむくみに用いられています。
柴苓湯は、外傷および手術後の下肢腫脹の消退に要した平均日数(15.8日)は、対照群(非投与群:59.4日以上)より有意に短い。
ランダム化比較試験 整形外科. 1993; 44: 127-31.
3.3)猪苓湯(チョレイトウ)は、残尿感や頻尿など泌尿器領域に用いられます。排尿異常(2)を参照してください。口渴、胸苦しさ、下痢、不眠を伴う下半身のむくみに適します。
本方は、清熱利尿薬の滑石(カッセキ)を含み五苓散より熱証の病態に適します。
4.補気利水剤:防已黄耆湯(ボウイオウギトウ)
防已黄耆湯は、午後になると下肢がむくみ、膝関節の腫れと痛みに頻用されます。疲れやすく、汗をかきやすく、筋肉にしまりのない、いわゆる水ぶとりで体が重だるい人に適します(図3)。変形性膝関節症(1)を参照してください。
本方は、利水薬に相当する祛風湿薬(キョフウシツヤク)の防已(ボウイ)と利水補気薬の黄耆(オウギ)白朮(ビャクジュツ)を含みます。

本方は、患部の腫れが顕著な時には薏苡仁湯(ヨクイニントウ)、患部に熱感があれば越婢加朮湯(エッピカジュツトウ)など麻黄(マオウ:利水消腫)配合剤と併用されます。
冷えを伴う時には附子(ブシ:補腎陽、散寒燥湿)末を併用します。
医療用防已黄耆湯と解熱消炎鎮痛薬との併用によって関節滲出液が減少する効果が検証されています。
防已黄耆湯(と解熱消炎鎮痛薬・ロキソプロフェン併用群:12週間投与)は変形性膝関節症の関節滲出液を4週間後から対照群(ロキソプロフェン単独群)より有意に減少した。併用群の機能スコアは対照群より有意に改善した。
ランダム化比較試験 Sports Medicine Arthroscopy Rehabilitation Therapy Technology. 2012; 4: 1-6.
5.補血活血利水剤:疎経活血湯(ソケイカッケツトウ)
疎経活血湯は、腰下肢の関節の腫痛や筋肉の痛み、しびれに用いられます。こむらがえりにも適します。症状は冷えると悪化します。
本方は、祛風湿薬の威霊仙(イレイセン)、防已と活血利水薬の牛膝(ゴシツ)と利水薬の蒼朮(ソウジュツ)、茯苓を含む補血活血利水剤です。変形性膝関節症(2)や漢方薬名の意味:疎経活血湯を参照してください。
6.理気利水活血剤:九味檳榔湯(クミビンロウトウ)
九味檳榔湯(11味)は、下肢のむくみ、だるさ(水滞)や動悸、心窩部のつかえ感、腹部膨満感(気滞と痰飲 タンイン)と動悸を伴う全身の疲労感、重だるさに用いられます。冷えで増悪する筋肉痛、こむらがえりにも用いられます。疲労感(4)も参照してください。
7.活血剤
7.1)治打撲一方(ヂダボクイッポウ)は、打撲による腫れや痛みに用いられます。打撲(損傷)は大黄(ダイオウ)の適応となる急性の瘀血証(オケツショウ)です。
本方の損傷後の疼痛消失と腫脹消退効果は抗炎症薬と同等であることが明らかにされています。
治打撲一方群と抗炎症薬(ロキソプロフェンナトリウム)群の新鮮前距腓靱帯(III度)単独損傷の疼痛消失と腫脹消退期間は両群でほぼ同等であった。
腫脹は治打撲一方群の方が早く消退する傾向にあった。
ランダム化比較試験 漢方と診療. 2010; 1: 128-32.
7.2)桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)は、最も頻用されている活血剤です。
本方と抗凝固薬を併用して下肢深部静脈血栓症の下腿浮腫を軽減した報告があります。
桂枝茯苓丸(とヘパリン、ウロキナーゼ、ワーファリン併用群:6ヶ月投与)は、下肢深部静脈血栓症の下腿周径差の改善率(66.1±20.5%)は、対照群(上記西洋薬投与群: 34.0±13.7%)より有意に高かった。
ランダム化比較試験 静脈学. 2009; 20: 1-6.

歩行と足のむくみ解消
歩く運動は足のむくみの予防と解消に寄与します。
歩くと足の筋肉が収縮し足の静脈内の血液が動きます。静脈には逆流防止の弁があるので血液は少しずつ心臓に送り返されます。
このようにして組織に停滞していた水も心臓へ還流されるのです。
(2023年3月16日 公開)
病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。


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