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病気の悩みを漢方で

足のむくみの漢方
1.足のむくみ(冷え)
むくみの病態は水滞(スイタイ)ですから治療の主体は利水(リスイ)です。病態に応じて補気(ホキ)補血(ホケツ)理気(リキ)活血(カッケツ)薬を加えます。冷えを伴う場合は補腎(ホジン)や散寒(サンカン)も必要になります。
今回は、冷えを伴う足のむくみを温める利水剤を考えます。
2.補血利水剤
当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)は、血虚(ケッキョ:顔色不良、全身と手足の冷え)と水滞(頭重、めまい、動悸、むくみ)に用いられます。冷え症で午後に下肢がむくむことが本方を選択する目標の一つです。めまい(2)を参照してください。
本方は、3種類の補血活血薬(図1下段)と3種類の利水薬(図1上段)を含みます。白朮(ビャクジュツ)と 茯苓(ブクリョウ)には補気の薬能もあります。

3.散寒利水剤
3.1)苓姜朮甘湯(リョウキョウジュツカントウ)は、下半身のむくみ、腰や下肢の冷え、腰痛に用いられます。重だるさと頻尿を伴い、症状は冷えると悪化します。漢方薬名の意味:苓姜朮甘湯を参照してください。

重だるさが水滞と気虚の目安です。
本方は、利水補気薬の白朮と茯苓と散寒薬の乾姜(カンキョウ)を含みます(図2)。
3.2)桂枝加朮附湯(ケイシカジュツブトウ)は、冷えと関節痛を伴う下肢のむくみに用いられます。変形性膝関節症(2)を参照してください。
本方は、江戸時代に日本で創案された方剤です。桂枝湯(ケイシトウ)に散寒止痛、利水薬の附子(ブシ)と利水薬の朮(ジュツ)を加味した散寒燥湿止痛剤です。朮には蒼朮(ソウジュツ)が用いられていました(図3)

3.3)桂枝加苓朮附湯(ケイシカリョウジュツブトウ)は、桂枝加朮附湯と同様に冷えで生じた四肢の冷え、疼痛や痺れ、むくみ、めまい、動悸に用いられます。
本方は、桂枝加朮附湯に茯苓を加味した方剤です。真武湯(シンブトウ)と苓桂朮甘湯(リョウケイジュツカントウ:茯苓、桂皮、朮、甘草)の配合生薬が含まれます(図4)。

3.4)真武湯は、痩せて生気が乏しく顕著な全身の倦怠感、冷えを伴うめまい(浮遊感)、動悸、腹痛、下痢に用いられます。利水薬の附子、白朮、茯苓を含む散寒利水剤です(図4)。めまい(2)や疲労感(6)を参照してください。
真武湯は、冷えと水滞(めまい、むくみ、腹痛、下痢)が主たる適応です。
桂枝加朮附湯は、冷えと関節の痛みとむくみに適します。
4.補腎剤
漢方の腎は体液(津液 シンエキ)の代謝調節と尿の排泄を担います。この点は現代医学の腎臓と類似しています。なお漢方医学では、慢性疾患には腎機能の低下(腎虚 ジンキョ)が関わると考えます。全身の倦怠感に加えて下半身のむくみ、重だるさ、冷痛、脱力感、排尿異常は腎虚を疑う症状です。
腎虚には、2種類の病態があります。
・冷えと痛みが顕著な腎陽虚(ジンヨウキョ)には補腎陽薬(ホジンヨウヤク)の附子、
・乾燥とほてりが顕著な腎陰虚(ジンインキョ)には補腎陰薬(ホジンインヤク)の熟地黄(ジュクジオウ)が用いられます。漢方薬名の意味:牛車腎気丸を参照してください。
前記の桂枝加朮附湯や真武湯も、附子を含む散寒(補腎陽)利水剤ですが、ここでは附子と熟地黄を含む補腎剤を考えます(図5)。

4.1)八味地黄丸(ハチミジオウガン)は、高齢者の虚弱状態に伴う下半身のむくみ、冷え、腰痛に頻用されます。
本方は、腎陰虚を潤す六味丸(ロクミガン)に腎陽虚を温める附子と桂皮を加味した方剤です。冷えとむくみと皮膚乾燥に温めを補いながら軽減します。
4.2)牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)は、八味地黄丸に、利水薬の牛膝(ゴシツ)と車前子(シャゼンシ)を加味して利水の薬能を強化した補腎剤です。
八味地黄丸の適応で下肢のむくみ、痛み、しびれが顕著な時に適します。フレイル(4)やロコモでも解説しています。
牛車腎気丸の下肢リンパ浮腫を軽減する効果が検証されています。
牛車腎気丸(1ヶ月投与、圧迫療法併用)は、下肢リンパ浮腫患者の浮腫減退率(17.5±2.8%)を対照群(圧迫療法単独群:6.7±0.8%)より有意に減少した
ランダム化比較試験 漢方医学. 2002; 25: 284-7.
八味地黄丸と牛車腎気丸は、排尿異常(2)も参照してください。
冷えを伴う足のむくみに用いられる主な附子配合剤の使い分けの目安を図6に示します。


危険なむくみ
息苦さ痛み発熱を伴う急なむくみや、片足だけがむくむ場合は、医師の診察を受けてください。
漢方製剤を1ヶ月服用しても軽快しないむくみは、原因となる疾患を確認するために医療機関を受診してください。
むくみには心臓、腎臓、肝臓疾患や甲状腺機能低下、副腎皮質ホルモンの異常症などの内分泌疾患が関与する場合があります。
(2023年4月14日 公開)
病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。


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