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病気の悩みを漢方で
1.不眠の治療概要
不眠は、睡眠不足状態が続き、日中に倦怠感、意欲低下、集中力低下などの不調があって生活する上で支障のある病態です。
不眠(睡眠障碍)は多様な原因で発現します(図1)。
漢方製剤の適応となるのは、疾患病変が軽微な不定愁訴としての不眠です。なお睡眠の満足度は個人差がありますので睡眠時間に拘りすぎて不安にならないように気をつけてください。ちょっと一言を参照してください。
漢方製剤を約1ヶ月服用して不眠が軽減されない時や、日中の眠気で仕事に支障がある場合は、医療機関を受診してください。受診する時には、
1)不眠の形態を話してください。睡眠薬を選択する指針になります。
2)服用中の薬を持参してください。不眠を誘発する薬の有無を確認します。
不眠の形態には、寝付きの悪い入眠障碍、夜中に目が覚める中途覚醒、目覚めた時に熟眠感の乏しい熟眠障碍、朝早く目が覚める早朝覚醒などがあります。
漢方製剤には西洋の睡眠薬のように入眠障碍にすぐに効く作用は期待できませんが、睡眠薬の節減を目指して併用されることもあります。
2.不眠に用いられる主な生薬
漢方製剤の選択に際しては不眠の形態も参考にしますが、基本は不眠に随伴する症状群を漢方医学的に整理して方剤を使用します。
ここでは、図1に示したいらだち(気逆 キギャク)、抑うつ(気滞 キタイ)、不安(心神不安(シンシンフアン)、倦怠感(虚労 キョロウ)に着目して不眠に用いられる主な生薬を解説します。
3.いらだち(気逆)
いらだち、焦燥感、興奮によって寝付かれない気逆(心火上炎 シンカジョウエン)には黄連(オウレン)や山梔子(サンシシ)の適応になります。(図2)。
黄連(清心瀉火)と山梔子(瀉火除煩)は、いらだち、顔面紅潮、焦りを伴う不眠に用いられる黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)の主要生薬です。
黄連は、三黄瀉心湯(サンオウシャシントウ:便秘)や竹筎温胆湯(チクジョウンタントウ:夜間咳嗽)にも含まれています。
山梔子は、加味帰脾湯(カミキヒトウ:心身の疲れ)や加味逍遙散(カミショウヨウサン:多様な不定愁訴)にも配合され不眠の軽減に寄与しています。
4.抑うつ(気滞)
抑うつ、いらだち、膨満感、閉塞感、ため息を伴う気滞(肝気鬱結 カンキウッケツ)による不眠には柴胡(サイコ)の適応になります(図3)。
柴胡は、気滞(抑うつ、いらだち、ため息、閉塞感、膨満感)を改善する理気疎肝薬(リキソカンヤク)です。
柴胡は以下の方剤に配合されて不眠に用いられています。
・山梔子を含む加味逍遙散(カミショウヨウサン:多愁訴)、
・釣藤鈎(チョウトウコウ)を含む抑肝散(ヨクカンサン:神経の高ぶり)
・安神薬(アンシンヤク)を含む柴胡加竜骨牡蛎湯(サイコカリュウコツボレイトウ)
柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ)加味帰脾湯(カミキヒトウ)
5.不安、物音に驚きやすい(心神不安 シンシンフアン)
心神不安は、気虚や血虚や痰飲(タンイン)が錯雑して不安、不眠、動悸、焦り、意欲低下、煩驚(物音に敏感で驚きやすい)を伴う病態です。疲労感(1)と(3)も参照してください。
心神不安による不眠には安神薬(アンシンヤク)の竜骨(リュウコツ)と牡蛎(ボレイ)が用いられます(図4)。
図4の安神薬は柴胡加竜骨牡蛎湯や桂枝加竜骨牡蛎湯(ケイシカリュウコツボレイトウ)に配合生薬されて不眠に用いられます。柴胡桂枝乾姜湯は牡蛎のみを含みます。
6.不安と心身の疲労(気虚血虚)
疲労倦怠感を伴う心神不安の不眠には遠志(オンジ)酸棗仁(サンソウニン)や竜眼肉(リュウガンニク)などの安神薬を含む補益剤の適応になります(図5)。
これらは酸棗仁湯(サンソウニントウ)帰脾湯(キヒトウ)人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ)に配合されて不眠に用いられます。
今回記載した方剤は次回以降に解説します。
睡眠衛生(睡眠と不眠に関する知識)
睡眠衛生は、睡眠の質や量を向上させる方法を考えることです。
1)「●時間眠るべきである!」と決めつけないでください。
日中に眠気を感じずに日常生活に困らなければOKと「ゆったり」考えましょう。睡眠の量や質に対する満足感は個人差があります。
2)早寝より定時に早起きし朝日を浴びる、朝食を摂る。
概日リズム(体内時計)を整える方策です。そのため、休日に「寝だめ」と称して2時間以上遅く起きることは控えましょう。
(2022年6月17日 改訂公開)
病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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