病気の悩みを漢方で

１．安眠を妨げる症状

　高齢になると多様な症状によって安眠が障碍されます。今回は安眠を妨げる症状を軽減する方剤を解説します（図１）。

　夢による安眠障碍に関しては､不眠（３）を参照してください。

２．夜間咳嗽

2.1）竹筎温胆湯（ﾁｸｼﾞｮｳﾝﾀﾝﾄｳ）は､咳き込み（図２）で夜中に目が覚める病態に用いられる方剤です。炎症傾向のある喀痰を伴う湿性咳嗽が適応です。
　本方に関しては漢方薬名の意味：竹筎温胆湯を参照してください。

2.2）滋陰降火湯（ｼﾞｲﾝｺｳｶﾄｳ）は､体力の低下した人の少量粘稠痰を伴う長引く乾性咳嗽に用いられます。漢方薬名の意味：滋陰降火湯を参照してください。

　本方は口腔咽喉や皮膚の乾燥などの乾燥病態と､夕方夜間の咳嗽､微熱､寝汗､掌や足裏のほてりなどの不快な熱症状（虚熱 ｷｮﾈﾂ）に適します。虚労（３）を参照してください。

　両方剤は共に夜間の咳嗽に用いられますが､使い分けの目安は､
　・竹筎温胆湯は、抑うつ感､胸苦しさ不安や不眠を伴う湿性咳嗽、
　・滋陰降火湯は、口腔内や皮膚の乾燥､ほてりを伴う乾性咳嗽に適します。

３．下肢のほてりと冷え

3.1）三物黄芩湯（ｻﾝﾓﾂｵｳｺﾞﾝﾄｳ）は､口内の乾燥､手足のほてりを伴う不眠や湿疹･皮膚炎､に用いられます。
　本方は､血虚（ｹｯｷｮ）と津液不足（ｼﾝｴｷﾌｿｸ）によるほてり（虚熱）を潤して冷やし清熱する３生薬からなります（図３）。

3.2）八味地黄丸（ﾊﾁﾐｼﾞｵｳｶﾞﾝ）は､疲れやすく､四肢や腰が冷える一方で､足の裏や手のひらに不快なほてりがあり安眠を妨げます。

3.3）当帰四逆加呉茱萸生姜湯（ﾄｳｷｼｷﾞｬｸｶｺﾞｼｭﾕｼｮｳｷｮｳﾄｳ）は､冷えと痛みによる安眠障碍に用いられます。
　本方は手足や腰の冷え､しもやけ（凍瘡）や頭痛､下腹部の痛み､月経痛､腰痛に適した温経散寒剤（ｵﾝｹｲｻﾝｶﾝｻﾞｲ）です。腰痛（２）を参照してください。

４．むずむず症候群

　むずむず症候群（レストレスレッグス症候群）は､就寝時に下肢に発現する不快な異常感覚（むずむずする､虫がはうような違和感､ちくちくする痛み）です。これによってが安眠が障碍されます。

　抑肝散（ﾖｸｶﾝｻﾝ）が､このむずむず症状を軽減することが報告されています（抗てんかん薬やパーキンソン病治療薬と併用）。

　なお､むずむず症候群には､三物黄芩湯､黄連解毒湯（ｵｳﾚﾝｹﾞﾄﾞｸﾄｳ）､桃核承気湯（ﾄｳｶｸｼﾞｮｳｷﾄｳ）､当帰芍薬散（ﾄｳｷｼｬｸﾔｸｻﾝ）を用いた報告もあります。
　むずむず症状の発現背景（全身の証）が多様であることを示唆しています。

５．こむら返り

　こむら返りは､こむら（ふくらはぎ）だけでなく､太もも､胸や腹の筋肉でも発生する痛みを伴う急性の筋痙攣です。こむら返りを参照してください。

　芍薬甘草湯（ｼｬｸﾔｸｶﾝｿﾞｳﾄｳ）が急性期のこむら返りの痛みを緩和する第一選択薬です。本方は予防のために漫然と連用することは推奨できません。
　疎経活血湯（ｿｹｲｶｯｹﾂﾄｳ）は高齢者に再発するこむら返りの予防に適します。

６．夜間頻尿

6.1）牛車腎気丸（ｺﾞｼｬｼﾞﾝｷｶﾞﾝ）と八味地黄丸は夜間頻尿に適します。腰痛や重だるさ､足腰の衰えを伴う腎虚（ｼﾞﾝｷｮ）を補う補腎剤（ﾎｼﾞﾝｻﾞｲ）です。
　漢方薬名の意味：牛車腎気丸を参照してください。

6.2）清心蓮子飲（ｾｲｼﾝﾚﾝｼｲﾝ）は胃腸症状や精神的ストレスによる不安やいらだちなどを伴う頻尿や排尿異常に適した補気補腎剤です。
　漢方薬名の意味：清心蓮子飲を参照してください。

　この２方剤は､排尿痛や炎症の程度の低い頻尿に適します。
　痛み伴う頻尿や排尿異常には竜胆瀉肝湯（ﾘｭｳﾀﾝｼｬｶﾝﾄｳ）のような清熱性の方剤が適します。排尿異常（２）を参照してください。