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病気の悩みを漢方で

漢方薬名の意味

葛根湯(カッコントウ)

1.葛根湯(カッコントウ)

 葛根湯の名は、葛根(カッコン)が主薬であることを示しています。葛根は、クズ(図1)の根から皮(周皮)を除いて調製されます。
 葛根の薬能は、
・発熱性疾患の初期症状(表証 ヒョウショウ:悪寒発熱頭痛)を軽減する辛涼解表(シンリョウゲヒョウ)と、
・筋の緊張を緩める舒筋(ジョキン)です。
 解表は、かぜ(1)を参照してください。 

 葛根湯は、桂枝湯(ケイシトウ)の桂皮(ケイヒ)と芍薬(シャクヤク)の量を減らした5生薬に、葛根麻黄(マオウ)を加味した方剤です(図2)。桂枝湯は、漢方薬名の意味:桂枝湯を参照してください。

 以上から葛根湯の名は、本方の適応が、桂枝湯の適応となるかぜ初期の悪寒発熱病態に、筋肉緊張病態首筋・背中・肩のこり)が加わった病証であることを示唆しています。病期を参照してください。

2.葛根湯の適応

かぜの初期寒け悪寒)と発熱が同時にある鼻かぜ頭痛首筋・背中・肩こりなどと筋肉痛に用いられます。桂枝湯と異なり自然発汗のない病態に適します。
 葛根湯は、有熱かぜ症候群に頻用されています(日東医誌., 1995; 46: 285-291)。
 本方は、かぜに合併する下痢にも有用です(日東医誌., 1964; 15: 28-31)。

 かぜ初期の病態に応じて葛根湯麻黄湯(マオウトウ)、小青竜湯(ショウセイリュウトウ)が使い分けられます(診療と治療, 2011; 99: 746-751、漢方の臨床, 2020; 67: 185-189)。かぜ(1)漢方薬名の意味:麻黄湯を参照してください。

自発痛運動痛、随伴する肩こり頭重

日本口腔外科学会雑誌, 1987; 33: 1684-1690


脳神経外科と漢方, 2019; 5: 16-18


疼痛痺れ

日東医誌., 2020; 71: 224-227


上半身の痛み桂枝茯苓丸と併用)。

日東医誌., 2019; 70: 29-34


 緊張型頭痛も参照してください。

3.葛根湯の7生薬を含む関連方剤

(カッコントウカセンキュウシンイ)は、葛根湯川芎(センキュウ)と辛夷(シンイ)を加味して頭痛鼻づまりに適するように改変した方剤です。鼻炎(2)鼻水と鼻づまりを参照してください。
 本方は、頭重肩こりを伴う粘稠傾向の鼻汁鼻閉に用いられる方剤です。副鼻腔炎耳鼻臨床, 1984; 77: 153-162)や感冒様症状後の鼻閉塞日東医誌., 1995; 46: 83-89)に用いられています。

(カッコンカジュツブトウ)は、葛根湯蒼朮(ソウジュツ:利水健脾)と附子(ブシ:散寒止痛)を加味した方剤です。
 本方が、肩関節周囲炎、頸椎症に伴う症頸部・上肢痛を軽減した報告があります(日東医誌., 2011; 62: 744-749)。
 エキス製剤では、葛根湯桂枝加朮附湯を併用して代用し帯状疱疹後の三叉神経痛に用いられています(日東医誌., 2024; 75: 204-208)。

(ドッカツカッコントウ)は、葛根湯独活(ドッカツ:祛風湿止痛)と地黄(ジオウ:補血生津)を加味した方剤です。
 本方は、五十肩冷えを伴う長引く肩こりに用いられています(基礎と臨床, 1996; 30: 197-208)。

4.葛根湯の主な生薬を含む関連方剤

(ショウマカッコントウ)は、流涙咳嗽鼻汁を伴う感冒様症状を軽減した報告があります(日東医誌., 2019; 70: 333-336)。
 本方(5味)は、葛根湯の4生薬と、升麻(ショウマ:辛涼解表清熱解毒)からなります(図3)。悪寒より熱感の強い急性期のかぜ発疹に用いられます。

(サイカツゲキトウ)は、葛根湯の適応病態(悪寒発熱頭痛筋肉痛)と小柴胡湯の適応病態(吐き気食欲不振寒熱往来)に加えて石膏(セッコウ)の適応となる熱感口渴などの熱証の顕著な時に使用されます(日東医誌., 1994; 44: 607-611、日東医誌., 2020; 71: 24-29)。かぜ(2)病期を参照してください。

 本方(10味)は、辛温解表薬桂皮麻黄辛涼解表薬葛根柴胡清熱薬石膏を含みます(図3)。
 エキス製剤では、葛根湯小柴胡湯加桔梗石膏を併用して代用されます(原方にはない大棗人参桔梗が含まれることになります)。

(ジンソイン)は、かぜ初期から亜急性期期にかけての水様性無色喀痰を伴う湿性咳嗽が続き、食欲不振倦怠感吐き気を伴うかぜに用いられます。
 本方は、麻黄を含まない漢方の総合感冒剤です。葛根湯より高齢者や胃腸虚弱者悪寒と発熱が顕著でない感冒様症候群に適します。胃腸かぜ夏かぜ(1)を参照してください。

 本方(12味)は、葛根湯葛根を含む4生薬と、化痰剤(ケタンザイ)の二陳湯(ニチントウ:図4の点線枠内の5生薬)を含む解表補気化痰剤です(図4)。

ちょっと一言:(トピックス)

葛根湯口訣(抜粋)

・本方は、自汗がなく悪寒発熱頭痛首筋背中がこわばるものに用いる。体表の炎症や化膿の初期発熱四肢の痛みにもよい(山田光胤)。

・本方は、風寒の邪に犯された寒性感冒の引き始め太陽病表実証)の悪寒発熱頸部背部のこわばり無汗に用いる発汗解表潤津舒筋剤(三浦於菟)。

・本方は、かぜ症候群の急性期発熱悪寒頭痛自然発汗がない後頸部のこりに用いる。麻黄湯は、節々の痛み咳嗽に用いる(巽浩一郎)。

2024年11月8日 公開


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病気の悩みを漢方で

谿 忠人 先生

大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了

  • 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
  • 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
  • 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
  • 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
  • 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
  • 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
  • 大阪大谷大学名誉教授。
  • 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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