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病気の悩みを漢方で

症状と漢方薬

1.認知症の行動・心理症状(BPSD

 認知症(日常・社会生活に支障を及ぼす脳の認知機能障碍)に伴う症状には、
 ・中核症状(記憶障碍、理解力や判断力の低下、実行機能障碍など)と、
 ・行動・心理症状BPSD)があります。認知症(1)も参照してください。

 BPSDの軽減は認知症の治療と介護において重要です。 BPSDは、患者の自らへの怒り、不安に加えて、周辺の人との人間関係によるストレスで生じます。患者の気質や生活環境の影響を受けるため個人差があります。

 BPSDを軽減することが漢方製剤の主な適応領域です。その時BPSDを、
 1)暴行暴言怒り落ち着きのなさなどの興奮傾向が主体の病態と、
 2)不安意欲低下無関心閉じこもりなどの抑うつ傾向が主体の病態
に分けて方剤を使い分けます。

 今回は、興奮症状BPSDに用いられる方剤群を解説します。この領域では抑肝散(ヨクカンサン)が頻用されていますが、抑肝散だけに限定せず、症状(病態)に応じて適切な方剤を使い分けを考えます。
 抑うつ傾向のBPSDに対する方剤は次回に解説します。

2.黄連(オウレン:清心瀉火)を含む降気剤(コウキザイ)

 (オウレンゲドクトウ)は、いらだちのぼせ顔面紅潮焦燥感逆上感を伴うBPSDに適します。
 本方は心火上炎 (シンカジョウエン、気逆)を4種の清熱薬で鎮める降気剤です(図1)。
自律神経失調症(3)を参照してください。
 本方は、高血圧傾向の脳血管性認知症患者の興奮を鎮めた報告があります。


 黄連解毒湯(12週投与)は、認知症患者の軽度以上の全般改善度39.3%、精神症候改善度46.5%、日常生活動作改善度50.0%であった。

症例集積研究 Therapeutic Res. 1994; 15, 986-994.

3.釣藤鈎(チョウトウコウ:平肝熄風)を含む熄風剤(ソクフウザイ)

 釣藤鈎は、肝陽上亢(カンヨウジョウコウ:肝風 カンフウ)によるのぼせ頭痛めまい目の充血耳鳴り痙攣に用いられる熄風薬(ソクフウヤク)です。

 肝陽上亢は、血虚(ケッキョ)や津液不足(シンエキフソク)による虚熱(キョネツ)です。熱証黄連解毒湯の適応病態より軽度です。
 肝陽上亢の治療には熄風薬釣藤鈎補血薬(ホケツヤク)や生津薬(セイシンヤク)を含む方剤が用いられます(図2)。

(ヨクカンサン)は、神経の昂ぶり興奮怒りいらだち焦燥感不眠に用いられる方剤です。下線肝陽上亢の症状です。漢方薬名の意味:抑肝散を参照してください。

 医療用の抑肝散製剤は、興奮傾向BPSDに用いられています。

 (4週間投与)は、認知症患者(55-85才の混合型認知症を含むアルツハイマー病ならびにレビー小体型)の興奮攻撃性焦燥感易刺激性妄想幻覚を非投与群より有意に改善した。

ランダム化比較試験 (cross over) The International Journal of Neuropsychopharmacology. 2009; 12: 191-9.

 抑肝散製剤は、BPSD治療においてアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル)と併用されて症状改善することが報告されています。

 (と塩酸ドネペジル併用:4週間)は、混合型とアルツハイマー型認知症患者の興奮易刺激性妄想うつ不安無感情を塩酸ドネペジル単独群より有意に改善。塩酸ドネペジル単独群は無感情を改善。

ランダム化比較試験 Progress Neuro Psychopharmacology Biological Psychiatry.
2010; 34: 532-6.

 抑肝散の薬効を担う薬理研究も集積されています(図3)。

(ヨクカンサンカチンピハンゲ)は、抑肝散化痰薬(ケタンヤク)の陳皮半夏を加味した方剤です。抑肝散の適応病態に吐き気腹部膨満感痰飲)が加わった病態に使用されます。

 本方も高齢者の認知機能を軽減した報告があります。

 (4週間投与)は、55才以上の成人男女(消化器が弱く、疲れ怒りいらだち不眠や軽い精神症状が認められる者)の日本語版認知機能検査(ADAS-J cog.) を非投与群より有意に改善した。

ランダム化比較試験 精神科. 2013; 23: 130-8.

(チョウトウサン)は、頭痛のぼせめまい肝陽上亢)に用いられる熄風剤です。抑肝散より胃腸症状のある人にも適します。

 本方は眼球結膜の充血耳鳴り不眠を伴う高血圧傾向気むずかしく、感情の起伏が大きいかんしゃく傾向の中高年の人に適します。高血圧傾向の軽度認知障碍(MCI)にも使用されます。認知症(4)漢方薬名の意味:釣藤散を参照してください。

 本方も認知症患者のBPSDを軽減する効果が報告されています。

 (8週間投与)は、認知症患者(Alzheimer 型と脳血管障碍併発者)の認知機能scaleと日常生活動作指数を非投与群より有意に改善した。

ランダム化比較試験 J. American Geriatrics Society. 2005; 53: 2238-40.

4.安神剤(アンシンザイ)

 安神剤は、不安興奮煩躁いらだち焦燥)、動悸驚きやすい不眠などの心神不安(シンシンフアン)を軽減する方剤です。理気降気(コウキ)に相当します。

(カンバクタイソウトウ)は、気分の落ち込み不安いらだち興奮などに用いられます。神経過敏の異常状態が突発的に発現します。生あくびを伴うことが目標です。

 いらだち、興奮傾向のBPSDには本方を頓服的に用いて抑肝散と併用されることもあります。

 本方は補気補血薬安神薬から構成されています(図4)。甘い生薬を含むので小児の夜泣きや不眠にも適します。夜泣きを参照してください。

(サイコカリュウコツボレイトウ)は、興奮症状(いらだち)と抑うつ症状(不安)の併存するBPSDに適した理気安神剤です。
 本方は、物音に驚きやすい神経質で几帳面、気苦労傾向の人の動悸不眠にも適します。不眠(3)も参照してください。

(カミキヒトウ)は、抑うつ症状(不安意欲低下)が主体ですが興奮症状(いらだち)も併存するBPSDに適した補気補血安神剤です。
認知症(4)を参照してください。

ちょっと一言:(トピックス)

認知症BPSDを伴う患者への対処

BPSDの誘因には、患者自身不安他者へのいらだちが絡んでいます。
・患者自身への悲哀、不安(今までのようにできない、情けない)、焦り。
・他者への不満、いらだち(伝わらない、馬鹿にされた)。

 認知症患者さんへの応対に際しては、子供扱いや高圧的な言葉や態度をとって自尊心を傷つけないようにしましょう。

(2023年7月13日 改訂公開)


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