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病気の悩みを漢方で
認知症の漢方
1.抑うつ傾向の行動・心理症状(BPSD)
今回は、認知症に伴う不安、意欲低下、無関心、不眠などの抑うつ傾向のBPSDに用いられる主な補益剤を紹介します(図1)。
抑うつ傾向のBPSDには、気血両虚(キケツリョウキョ)と心神不安(シンシンフアン)の絡む病証が多いようです。
心神不安は不安、抑うつ、動悸、息切れ、物音に敏感(煩驚)、不眠などを伴う病態です。遠志(オンジ)竜眼肉(リュウガンニク)などの安神薬(アンシンヤク)の適応になります。疲労感(1)も参照してください。
図1に例示した方剤の中では、補気補血安神剤の人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ)と帰脾湯(キヒトウ)が注目されています。
2.人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ)
人参養栄湯は、補気薬の人参(ニンジン)と補血薬の熟地黄(ジュクジオウ)など十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ 10味)の9味を含む補気補血剤です。
さらに本方は、安神薬の遠志と五味子(ゴミシ)を含みます。本方は抑うつ、不安、意欲低下、無関心、不眠と咳嗽に適することが十全大補湯と異なります(図2)。
本方と十全大補湯は、フレイル(3)でも比較しています。
医療用の人参養栄湯は、抑うつ傾向のBPSDの諸症状(無関心、意欲の低下)に用いられています。
・人参養栄湯(12週)は認知症患者(20例:アルツハイマー型19例)のMMSE点を改善し、無関心、意欲、食欲不振の改善、介護者の介護負担感も有意に改善。
(注)MMSE:認知機能の低下度を確認する神経心理検査。見当識や記憶力、口頭指示の理解力、図形を見ながら模写する能力などを検査した評価点。
人参養栄湯と配合生薬の基礎薬理(⇒認知症随伴症状軽減)。
・ドパミン代謝酵素(MAO-B、COMT)阻害 ドパミンの分解を抑え、食欲や意欲の低下を改善する。黄耆、陳皮、遠志の成分が関与。
遠志は、成人および高齢者の認知機能を改善する臨床効果が明らかにされています。また遠志エキスは「中年期以降の物忘れの改善」を適応症とする一般用生薬製剤として市販されています。
3.帰脾湯(キヒトウ)の関連方剤
3.1)帰脾湯は、人参養栄湯と同様に体力低下者の疲労倦怠、顔色不良に用いられる補気補血安神剤です。
本方は、補血安神薬の酸棗仁(サンソウニン)と遠志、竜眼肉を含み、入眠障碍や中途覚醒など不眠に関連する症状に用いられます。漢方薬名の意味:帰脾湯を参照してください。
帰脾湯と人参養栄湯を図3に比較しました。帰脾湯は補血薬の熟地黄を含まないので地黄の合わない人にも適します。両方剤は漢方薬名の意味:人参養栄湯で比較しています。
帰脾湯は、アルツハイマー病患者の見当識(日付や時刻、場所の理解力)と注意力の低下を改善した報告があります。
帰脾湯(3ヶ月投与)は、アルツハイマー病患者の見当識と注意力の低下を非投与群より有意に改善した。
ランダム化比較試験 Geriatrics & Gerontology International. 2007; 7: 245-51
3.2)加味帰脾湯(カミキヒトウ)は、帰脾湯に抑うつ感を軽減する理気薬(リキヤク)の柴胡(サイコ)と、いらだちを鎮める降気徐煩薬(コウキジョハンヤク)の山梔子(サンシシ)を加味した方剤です。
本方は、帰脾湯の適応に胸苦しさ、のぼせ、いらだちの興奮症状加わったBPSDに適します。不眠(3)を参照してください。
4.その他の方剤
長引く認知症患者は、倦怠感や足腰の衰え、冷え、夜間頻尿など腎虚(ジンキョ)による抑うつ的な虚弱状態を伴います。
八味地黄丸(ハチミジオウガン)や牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)は、腎虚の虚弱状態を温めて潤す補腎剤です。不眠(4)を参照してください。
医療用八味地黄丸の認知症へ応用した報告があります。
八味地黄丸(8週)は、認知症患者(84.4±7.8歳)のMMSE点(認知機能評価指標)とBI点(日常生活動作指標)を非投与群より有意に改善。
ランダム化比較試験 J. American Geriatrics Society. 2004; 52: 1518-21
BPSDの興奮傾向と抑うつ傾向
認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)に漢方製剤を使い分ける考え方を2回にわたって解説しました。
・興奮傾向のBPSDの
神経の昂ぶり、怒り、興奮、いらだち、暴言、攻撃性には抑肝散、
のぼせ、頭痛、めまい、眼の充血には釣藤散など、
・抑うつ傾向のBPSD(不安、意欲低下、無関心、閉じこもり、不眠)には
人参養栄湯(咳嗽)や帰脾湯(不眠)などを使い分けます。
これは、現代科学医療のBPSD治療において「興奮傾向にはメマンチン、抑うつ傾向にはドネペジル」を使い分ける考え方に相当します。
認知症(3)を参照してください。
(2022年9月6日 公開)
病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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