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病気の悩みを漢方で

漢方薬名の意味

桂枝加芍薬湯(ケイシカシャクヤクトウ)

1.桂枝加芍薬湯(ケイシカシャクヤクトウ)名の意味

 桂枝加芍薬湯の名は、桂枝湯(図1の黄色枠内の5生薬)に芍薬(シャクヤク)を加味(増量)したことを意味しています。

 桂枝加芍薬湯の配合5生薬を図1に示します。

 桂枝湯は、病気に対する反応の低下した病態(軽度の気血両虚 キケツリョウキョ)に用いられます。
 芍薬(図2)は、筋肉緊張による腹痛や月経痛を緩和する補血柔肝 ・緩急止痛薬です。柔肝(ジュウカン)は、肝の血虚や津液不足(シンエキフソク)を補う薬能です。止痛につながります。

 桂枝加芍薬湯は、筋緊張による疼痛を緩和する芍薬甘草湯(緩急止痛)の方意が桂枝湯より強化されました。桂枝湯の適応領域(かぜ初期の発熱、寒け、頭痛)ではなく、腹痛、腹部膨満感、便通異常に適した方剤に変化しました。

 以上のことから方剤名は、本方が、筋肉緊張による腹痛や便通異常に適することを示唆しています。

2.桂枝加芍薬湯の適応

 桂枝加芍薬湯は、腹痛、腹部膨満感、便通異常に用いられます。小児や高齢者など病気に対する反応性の低下した人(体力の虚証)の筋肉緊張による病態に適します。
 本方は、建中湯類(ケンチュウトウルイ)の主要な構成要素です。漢方薬名の意味:建中湯類を参照してください。

桂枝加芍薬湯の腹痛、便通異常への応用例

・過敏性腸症候群の下痢型の腹痛を対照群より有意に改善。二重盲検ランダム化比較試験。

臨床と研究, 1998; 75: 1136-1152


・手足が冷える過敏性腸症候群の腹部膨満感を軽減(大建中湯と併用)。

日東医誌., 2017; 68: 152-156


・全身性エリテマトーデスの下痢、腹痛を軽減(ステロイド薬と併用)。

日東医誌., 2000; 50: 683-690


・純粋型自律神経不全症の下痢、腹痛を軽減。

日東医誌., 2011; 62: 736-743


 過敏性腸症候群(3)も参照してください。

3.桂枝加芍薬湯の関連方剤

 桂枝加芍薬湯を含む関連方剤を図3に示します。

 桂枝加芍薬湯に膠飴(コウイ)を加味した小建中湯(ショウケンチュウトウ)とその関連方剤は、漢方薬名の意味:建中湯類で考えました。

は、桂枝加芍薬湯に瀉下薬の大黄(ダイオウ)を加味した方剤です。本方は、桂枝加芍薬湯より便秘、腹部膨満感の顕著な病態に適します。

 桂枝加芍薬大黄湯の排便異常への応用例

・消化管検査後の下部消化管壁に附着した造影剤の硫酸バリウムの排泄を促進し、腹痛を軽減。

日東医誌., 2014; 65: 309-312


は、桂枝加芍薬湯に当帰(トウキ:補血活血)を加味した方剤です(図4)。なお膠飴を含む製剤もあります。

 当帰建中湯の応用例

・軟便傾向、月経困難症を伴う痤瘡を軽減。

日東医誌., 2014; 65: 28-32


・24歳(BMI:17.8)の月経困難症の月経痛と四肢の冷えを軽減(常用していた鎮痛薬を減量)。

産婦人科漢方研究のあゆみ, 2015; 32: 112-116


・38歳(BMI:18.9)の月経前症候群の倦怠感、下痢、いらだちを軽減(いらだちに四逆散を併用)。

産婦人科漢方研究のあゆみ, 2015; 32: 139-141


は、桂枝加芍薬湯に当帰と黄耆(補気固表、利尿托毒)を加味した方剤です。
 当帰建中湯と黄耆建中湯の適応病態で皮膚症状を伴う病態に使用されます。エキス製剤では当帰建中湯と黄耆建中湯を併用して代用されます。

 帰耆建中湯の応用例

・85歳男性:腰部脊柱管狭窄症術後の入院による褥瘡と足の冷えを軽減(附子を加味した煎剤)。

日東医誌., 1999; 49: 273-280


・黄耆建中湯と当帰建中湯の合方例


 ・73歳男性、感冒罹患後、易疲労感、体重減少、両側耳閉感を軽減。

日東医誌., 2014; 65: 5-12


 ・夏ばて・秋ばてによる起床時のだるさ、胃の不快感、胃痛を軽減。

漢方の臨床, 2026; 73: 685-694


4.桂枝加芍薬湯のその他の関連方剤

 (サイコケイシトウ)は、小柴胡湯と桂枝湯の合剤です。漢方薬名の意味:柴胡桂枝湯を参照してください。
 本方を、桂枝湯+柴胡、黄芩、半夏、人参と考えれば桂枝加芍薬湯との相違が理解できます(図5)。

 柴胡桂枝湯は、虚弱児の発熱、食思を改善し易感冒状態を改善するなど建中湯類の適応に似た病態に使用されています(日東医誌., 1991; 41: 149-155)。

 本方の主たる適応は、かぜ急性期から亜急性期の頭痛、食欲不振、吐き気です。かぜ(2)を参照してください。

ちょっと一言:(トピックス)

 桂枝加芍薬湯の口訣(抜粋)

・腹満と間欠的な腹痛(腸間通過障碍の痛み)に用います。腹直筋の緊張はあるが、腹力の弱い例に適します(三谷和合)。

・腹痛 、下痢に応用される。とくに過敏性腸症候群に頻用される。本方は症状治療に用い、体質虚弱の治療には小建中湯が適する(花輪壽彦)。

・もともと脾胃が弱く、消化管の緊張や運動が過剰で腹部を温めると痛みが和らぐ病態に適する(加島雅之)。

2026年10月21日 公開


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病気の悩みを漢方で

谿 忠人 先生

大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了

  • 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
  • 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
  • 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
  • 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
  • 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
  • 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
  • 大阪大谷大学名誉教授。
  • 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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