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漢方薬名の意味

半夏白朮天麻湯(ハンゲビャクジュツテンマトウ)

1.半夏白朮天麻湯(ハンゲビャクジュツテンマトウ)名の意味

 半夏白朮天麻湯の名は、半夏(ハンゲ)白朮(ビャクジュツ)天麻(テンマ)が主要な配合生薬であることを意味しています(図1)。

 半夏は、吐き気(痰飲 タンイン)を軽減する化痰降逆薬(ケタンコウギャクヤク)、
 白朮は、むくみ(水滞 スイタイ)と胃腸虚弱(脾胃気虚 ヒイキキョ)を軽減する利水健脾薬(リスイケンピヤク)です。
 天麻は、めまい、動揺感、頭痛(肝風 カンフウ)を鎮める熄風薬(ソクフウヤク)です。肝風と熄風は、漢方薬名の意味:釣藤散を参照してください。

 本方の配合生薬を示します(図2)。

 図2から、半夏白朮天麻湯が、化痰理気補気剤の二陳湯(ニチントウ:点線枠内の5生薬)や、補気化痰利水剤の六君子湯(リックンシトウ:黄色枠内の8生薬)の方意を含むことが分かります。

 このことから方剤名は、本方が半夏と白朮の適応となる胃もたれ、吐き気、胃腸虚弱に加えて、天麻の適応となるめまい、動揺感、頭痛を伴う病態に適することを示唆しています。

2.半夏白朮天麻湯の適応

 半夏白朮天麻湯は、冷え症、低血圧傾向の胃腸虚弱、倦怠感(気虚)を伴うめまい、胃もたれ、吐き気、頭重・頭痛(痰飲、肝風)に用いられます。
 なお本方の特徴の一つは、甘草を含まない漢方胃腸薬です。

 めまいと随伴症状に対する半夏白朮天麻湯の応用例

・消化器症状を呈する高齢者のめまいのリハビリ療法の継続に寄与。

日耳鼻., 2017; 120: 1401-1409


・13歳女性の頭痛と起立性調節障碍(立ちくらみ、朝起きにくい、疲れやすい、手足の冷え)を軽減し、不登校も解消(月経不順に当帰芍薬散を併用)。

日東医誌., 2018; 69 350-358


・胃下垂、易疲労、うつ傾向のめまいを軽減。

日耳鼻., 2020; 123: 1353-1357


・倦怠感、胃下垂、冷え症を伴う71歳女性のふわふわ感を軽減。

日脳神漢方医会誌., 2024; 9: 1‒11


 めまい(2)や起立性調節障碍を参照してください。

頭重・頭痛に対する半夏白朮天麻湯の応用例

・低気圧接近前に増悪する薬剤の使用過多による頭痛(MOH)を軽減。
 (スマトリプタンを1年後に中止)。

日本頭痛学会誌, 2024; 51: 117-119


 頭痛(6)を参照してください。

その他の領域に対する半夏白朮天麻湯の応用例

・小児の周期性嘔吐症を軽減。

日東医誌., 2011; 62: 574-583


・アルツハイマー型認知症(64例:年齢79.9±6.0歳)の長谷川式認知症スケールを改善。

日東医誌., 2013; 64: 104-107


・腰下肢痛に用いた弱オピオイド薬による嘔気を軽減し、弱オピオイド薬治療を継続できた。

日東医誌., 2015; 66: 327-330


3.食欲不振、吐き気に用いられる半夏白朮天麻湯の関連方剤

 六君子湯(リックンシトウ:四君子湯+二陳湯:8味)は、図2に示したように甘草、大棗以外の6生薬を半夏白朮天麻湯と共有しています。

 六君子湯は、半夏白朮天麻湯の適応となるめまいと天候悪化時の頭痛以外の、食欲不振、吐き気、胃もたれを軽減する第一選択薬です。機能性ディスペプシアを参照してください。両方剤は、漢方薬名の意味:六君子湯で比較しています。

4.頭痛、めまいに用いられる半夏白朮天麻湯の関連方剤

(リョウケイジュツカントウ)は、冷え傾向ですが、発作的に現れる頭痛やのぼせ、動悸(気逆、気上衝)に適します。古典には起則頭眩と記載されています。めまい(2)を参照してください。

 本方は、寝起きが悪く、午前中の体調が良くない傾向の人に適します。この適応病態は「ふくろう症候群」といわれています。起立性調節障碍のちょっと一言を参照してください。

 本方は、気逆、気上衝を鎮める桂皮(ケイヒ:降気)と甘草の薬対(降衝鎮悸)を含むことが、半夏白朮天麻湯との相違点です(図3)。

(チョウトウサン)は、半夏白朮天麻湯より熱証傾向の頭痛、のぼせ、めまい、耳鳴りに用いられています。緊張型頭痛を参照してください。
 本方は、認知症の興奮傾向の行動・心理症状(BPSD)にも用いられています。認知症(5)や漢方薬名の意味:釣藤散を参照してください。

 両方剤は共に頭痛に用いる補気化痰薬と平肝熄風薬(ヘイカンソクフウヤク)ですが、
 ・釣藤散は、のぼせを伴う高血圧傾向の早朝の頭痛に、
 ・半夏白朮天麻湯は、冷え症・低血圧傾向の低気圧頭痛に適します(図4)。

 頭痛、めまいに用いられる3方剤の使い分けの目安を示します(図5)。

・釣藤散は、のぼせを伴う高血圧傾向の早朝の頭痛に、
・半夏白朮天麻湯は、冷え症・低血圧傾向の低気圧頭痛に、
・苓桂朮甘湯は、発作性の頭痛、のぼせ、動悸、立ちくらみに適します。

ちょっと一言:(トピックス)

 半夏白朮天麻湯口訣(抜粋)

・脾胃気虚による内湿(痰飲:脾胃湿困)による食欲不振、消化不良、吐き気、回転性めまい、ふらつきに用いられる(森雄材)。

・頭痛(鈍痛、頭重感)、めまい(不安定感)が主訴、症状は天候悪化時に増悪、胃腸が悪い、疲れやすい、血色不良、冷え症(中田敬吾)。

・消化機能低下(脾胃気虚)のために生じた痰飲を除き、めまい、頭痛、嘔吐をおさめる化痰熄風、健脾補気剤(三浦於菟)。

2026年9月28日 公開


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病気の悩みを漢方で

谿 忠人 先生

大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了

  • 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
  • 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
  • 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
  • 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
  • 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
  • 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
  • 大阪大谷大学名誉教授。
  • 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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