病気の悩みを漢方で

１．精力減退と腎虚（ｼﾞﾝｷｮ）と補腎薬（ﾎｼﾞﾝﾔｸ）

　倦怠感・意欲低下と精力減退を伴う男性更年期障碍には補腎剤（ﾎｼﾞﾝｻﾞｲ）の適応になります。この腎（ｼﾞﾝ）は発育や生殖に関係する生殖泌尿系、免疫系などを司る漢方医学の五臓の一つです。

　精力減退は心身の活動力とくに男性の性機能の低下状態を意味しています。精力の精（ｾｲ）は、生命を維持するエネルギー源を意味する漢方用語です。精は漢方医学の腎（ｼﾞﾝ）に蓄えられます。

　加齢によって腎の精（ｾｲ）が減少し性機能の低下した病態が腎虚（ｼﾞﾝｷｮ）です。腎虚には補腎薬の附子（ﾌﾞｼ）や地黄（ｼﾞｵｳ：熟地黄または乾地黄）の適応となります（図１）。

　なお、気うつ、不安など精神的な要因の大きい精力減退に適する方剤に関しては、男性更年期障碍の漢方（２.いらだち､気うつ）を参照してください。

２．精力減退と倦怠感を伴う男性更年期障碍に用いられる主な補腎剤

　図２に精力減退と倦怠感や冷えを伴う男性更年期障碍に用いられる主な補腎剤（ﾎｼﾞﾝｻﾞｲ）をまとめました。

　　八味地黄丸（ﾊﾁﾐｼﾞｵｳｶﾞﾝ）は、加齢による生殖泌尿器系や視力や歯の衰え、骨や足腰の機能が低下した病態に用いられる方剤です。
　本方については、不妊（２．男性不妊）や排尿異常の漢方（１．前立腺肥大）を参照してください。

　牛車腎気丸（ｺﾞｼｬｼﾞﾝｷｶﾞﾝ）は、八味地黄丸に牛膝（ｺﾞｼﾂ）と車前子（ｼｬｾﾞﾝｼ）を加味した方剤です。八味地黄丸の適応病態に四肢のむくみやしびれが加わった状態に用いられます。
　本方については、漢方薬名の意味：牛車腎気丸を参照してください。

３．倦怠感と精力減退を伴う男性更年期障碍に補腎・補気剤

　精力減退や倦怠感には補腎薬（ﾎｼﾞﾝﾔｸ）と補気薬（ﾎｷﾔｸ）の人参（ﾆﾝｼﾞﾝ）を含む方剤も用いられます。

3.1）清心蓮子飲（ｾｲｼﾝﾚﾝｼｲﾝ）の配合生薬の中で、
　・補腎を担うのが蓮子（ﾚﾝｼ：蓮肉ﾚﾝﾆｸ ）や地骨皮（ｼﾞｺｯﾋﾟ：クコの根皮）、
　・補気を担うのは人参や黄耆（ｵｳｷﾞ）です（図４）。
本方は、八味地黄丸を服用して胃部不快感を伴う男性更年期障碍に適します。

　本方に関しては、漢方薬名の意味：清心蓮子飲を参照してください。

3.2）瓊玉膏（ｹｲｷﾞｮｸｺｳ）は、血の道症（産後の不調）で紹介しましたが、本方は、補腎薬の地黄と枸杞子（ｸｺｼ）、補気薬の人参と茯苓（ﾌﾞｸﾘｮｳ）を含むことから倦怠感と胃腸虚弱傾向の男性更年期障碍にも適します。
　基礎研究では、精子の運動性改善、精子の増加など男性更年期の精力減退を軽減する作用が明らかにされています。

４．腎虚を予防する薬食同源の食材

　中国では腎虚の予防のために薬食同源の食材が利用されてきました。

　八味地黄丸に配合されている山薬（ｻﾝﾔｸ：ヤマノイモの根茎）はトロロとして食べる食材です。清心蓮子飲に含まれる蓮肉（ﾚﾝﾆｸ ：ハスの種子）や瓊玉膏に含まれる枸杞子（クコの果実）は中華粥の具に含まれています。

　上記の食材の他にも、白きくらげ（銀耳 ｷﾞﾝｼﾞ）、ゴマの種子、クルミの種子仁 （胡桃肉ｺﾄｳﾆｸ）なども補腎用の薬食同源として薬膳（ﾔｸｾﾞﾝ）で利用されています（図５）。