病気の悩みを漢方で

１．虚弱（疲労倦怠感）による円形脱毛症に用いられる生薬と方剤

　今回は、消化吸収機能低下や加齢による虚弱（疲労倦怠感、皮膚乾燥）を伴う
円形脱毛症に用いられる漢方方剤を解説します。

　髪の毛の発育を保つためには、
　・体力低下を調える人参（ﾆﾝｼﾞﾝ）などの補気薬（ﾎｷﾔｸ）、
　・栄養不良を調える熟地黄（ｼﾞｭｸｼﾞｵｳ）などの補血薬（ﾎｹﾂﾔｸ）、
を主体にして気血（ｷｹﾂ）を調えます。さらに症状によっては、
　・加齢に伴う機能低下を遅らせる附子（ﾌﾞｼ）などの補腎薬（ﾎｼﾞﾝﾔｸ）
を含む方剤が用いられます（図１）。

２．胃腸虚弱、疲労倦怠感を伴う円形脱毛症･･･補気剤（ﾎｷｻﾞｲ）

　補中益気湯（ﾎﾁｭｳｴｯｷﾄｳ）は、胃腸の働きが衰えて疲労倦怠感、手足のだるさ、
筋肉の緊張力の低下、かぜを引きやすくこじれやすい状態を伴う円形脱毛症に
対処する代表的な補気剤です。

　補中益気湯の配合生薬は、図２の黄色の枠で囲んだ10生薬です。
　・主薬は補気薬の人参と黄耆（ｵｳｷﾞ）です。
　・補血薬の当帰（ﾄｳｷ）も含まれます。さらに、
　・ストレス症状を軽減する理気薬（ﾘｷﾔｸ）の柴胡や陳皮（ﾁﾝﾋﾟ）
も含まれており、円形脱毛症に適した内容になっています。

　補中益気湯に関しては、疲労感の漢方（２．胃腸虚弱と疲労感）や熱中症と夏ばて（２．夏ばて）も参照してください。

３．疲労倦怠感、皮膚乾燥、不安を伴う円形脱毛症･･･補気・補血剤

3.1）加味帰脾湯（ｶﾐｷﾋﾄｳ）は、身体と心の疲れに加えて、貧血傾向でストレスによる不安、動悸、不眠を伴う人の円形脱毛症に適します。
　本方は、図２に示したように補中益気湯に関連する補気剤です。これに、
　・補血薬の竜眼肉（ﾘｭｳｶﾞﾝﾆｸ）や酸棗仁（ｻﾝｿｳﾆﾝ）と、
　・ストレス症状を軽減する木香（ﾓｯｺｳ）、遠志（ｵﾝｼﾞ）を
加味して、疲労倦怠感、不安を伴う円形脱毛症に適した内容になっています。

3.2）人参養栄湯（ﾆﾝｼﾞﾝﾖｳｴｲﾄｳ）は、疲労倦怠感、貧血傾向、冷え症、咳嗽を伴う円形脱毛症に適します。
　本方も人参と黄耆に加えて、
　・乾燥傾向の皮膚を潤す補血薬の熟地黄（ｼﾞｭｸｼﾞｵｳ）、
　・ストレス症状を軽減する遠志（ｵﾝｼﾞ）
を含みます（図２）。疲労倦怠感、皮膚乾燥、不安、不眠を伴う円形脱毛症に適した内容になっています。

　加味帰脾湯と人参養栄湯に関しては、男性更年期障碍の漢方（３．倦怠感）も参照してください。

４．生殖泌尿器系の低下を伴う円形脱毛症･･･補腎剤（ﾎｼﾞﾝｻﾞｲ）

　漢方では倦怠感を伴う高齢者の脱毛や髪の毛の衰えは腎虚が関係すると考えます（ちょっと一言、参照）。
　腎虚は、加齢によって倦怠感、四肢の冷え、排尿異常などの生殖泌尿器系、足腰の衰えや腰痛などの運動器系機能の低下した状態です。

　八味地黄丸（ﾊﾁﾐｼﾞｵｳｶﾞﾝ）は腎虚の人の脱毛症に用いられる補腎剤（ﾎｼﾞﾝｻﾞｲ）です。
　本方は、円形脱毛症以外に男性型脱毛症（AGA）や薄毛にも用いられます。

　八味地黄丸に関しては、男性更年期障碍の漢方（4．精力減退）も参照してください。

　なお、八味地黄丸を服用して胃もたれなどの胃腸症状が起きる場合には、六君子湯（ﾘｯｸﾝｼﾄｳ）などの人参を
含む方剤を併用します。あるいは清心蓮子飲（ｾｲｼﾝﾚﾝｼｲﾝ）に変更します。