病気の悩みを漢方で

今回は、胃腸虚弱ではない人の暴飲暴食やストレスによる一時的な胃もたれに用いられる漢方方剤を紹介します。

１．平胃散（ﾍｲｲｻﾝ）・・・食べ過ぎ後の一時的な胃もたれと下痢

　平胃散（ﾍｲｲｻﾝ）は、食べ過ぎ（暴飲暴食）による胃もたれに用いられます。腹部膨満感、消化不良性の下痢を伴う急・慢性胃炎に用いられる方剤です。

　下痢が顕著な場合は五苓散（ｺﾞﾚｲｻﾝ）と併用して用いられます。本方と五苓散を組み合わせた方剤は胃苓湯（ｲﾚｲﾄｳ）です。

　本方は、一時的な胃もたれだけでなく、慢性の胃もたれや腹部膨満感にも用いられます。気うつ傾向やむかつきを伴う場合は、本方と半夏厚朴湯（ﾊﾝｹﾞｺｳﾎﾞｸﾄｳ）を併用します。

２．半夏厚朴湯（ﾊﾝｹﾞｺｳﾎﾞｸﾄｳ）・・・気うつ傾向の胃もたれ・嘔気､膨満感

　半夏厚朴湯（ﾊﾝｹﾞｺｳﾎﾞｸﾄｳ）は、精神的に緊張し気うつ時の胃もたれに適します。本方は気分がふさいで、咽喉や食道部に異物感や閉塞感があり、動悸、めまい、嘔気、膨満感を伴う胃もたれに用いられる方剤です。

　本方の構成は、
　・むかつきに用いられる小半夏加茯苓湯（ｼｮｳﾊﾝｹﾞ
　　ｶﾌﾞｸﾘｮｳﾄｳ）の３生薬に
　・気持ちを伸びやかにする蘇葉（ｿﾖｳ：シソの葉）と
　　厚朴（ｺｳﾎﾞｸ：ホウノキの樹皮）
を組み合わせた方剤です（図３）

　胃部膨満感を伴う時は、本方と茯苓飲（ﾌﾞｸﾘｮｳｲﾝ）を併用します。

　半夏厚朴湯に関しては、
　　ストレス胃（３．胃もたれ）や
　　PMS（月経前症候群）（３．気うつ感）で解説していますので参照してください。

３．藿香正気散（ｶｯｺｳｼｮｳｷｻﾝ）・・・夏ばてや胃腸かぜの胃もたれ・食欲不振

　藿香正気散（ｶｯｺｳｼｮｳｷｻﾝ）は、夏かぜに伴う胃もたれ、食欲不振､嘔気と下痢（吐き下し）､全身が重くだるい状態に用いられる方剤です。

　本方はかぜをひいていないときの慢性的な胃もたれにも適します。

　本方に関しては夏かぜの漢方（１．胃腸症状）で解説していますので参照してください。

４．一時的な胃もたれに用いられる３方剤の配合生薬と使い分け

　ここまでに紹介した３方剤の配合生薬を比較しました（図４）。

　図４の３方剤の適応症状は、胃もたれ、食欲不振、嘔気などは共通ですが、それぞれに 特有の症状があります。これらを参考にして使い分けます。
　・平胃散（ﾍｲｲｻﾝ）：　食べ過ぎによる胃もたれ、腹が鳴って下痢傾向を伴う。
　・半夏厚朴湯（ﾊﾝｹﾞｺｳﾎﾞｸﾄｳ）：　気分がふさぐ、のどのつかえ感、嘔気､膨満感を伴う。
　・藿香正気散（ｶｯｺｳｼｮｳｷｻﾝ）：　夏ばてや胃腸かぜに伴う吐き下し､全身が重くだるい。

５．安中散（ｱﾝﾁｭｳｻﾝ）・・・冷え症傾向の胃もたれ・胃痛

　安中散（ｱﾝﾁｭｳｻﾝ）は、冷たい物の飲み過ぎによる一時的な胃もたれに適しますが、慢性の神経性胃炎に伴う胃もたれにも用いられます。

　本方は、胃腸を温めて機能を調え、胃もたれ（みぞおち部のつかえ感）、食欲不振、胸やけ、胃痛（とくに空腹時）を軽減する方剤です。

　安中散は配合生薬の異なる処方もありますが、日本では７種類の製剤が一般的です（図５）。

図５の中で
　・上段の４生薬が芳香性健胃薬に相当します。
　・下段の延胡索（ｴﾝｺﾞｻｸ）と甘草（ｶﾝｿﾞｳ）が鎮痛薬、
　　牡蛎（ﾎﾞﾚｲ：かきの貝殻）は胃酸を弱める制酸薬に相当します。

　安中散は、芳香性でおいしい方剤ですので、一般用の漢方胃腸薬として広く用いられています。

　本方に関しては、漢方薬名の意味：安中散を参照してください。